昨年、一昨年は景気循環の中でも在庫変動の役割に注目した研究を行ってきたが、本年度は特定の需要項目に注目せず景気循環全体に関する政策課題としての金融政策を中心に研究を進めてきた。80年代以降の日本経済の動向にとり金融政策が非常に大きな影響力を持ったことは数多くの論者により指摘されている。90年代、特にその後半のデフレ期に至ってその重要性はさらに増しているといえるだろう。実証的なアプローチでは80年代以降の日本経済に関し、信用乗数の変化、為替レートを通じての金融政策の波及が期待インフレ率に大きく依存することがわかった。両研究「信用乗数の変化はいかにして説明されるか」(飯田泰之・原田泰・浜田宏一)、「金融政策の波及チャネルとしての為替レート」(寺井晃・飯田泰之・浜田宏一)は2月に内閣不経済社会総合研究所で報告し、3月末にDiscussion Paperとして同研究所より発行される。 また、90年代の日本経済を考えると言うことはデフレーションと失業の問題を考えることに他ならない。前者の「デフレ経済」に関しては戦後の事例が無く、その特性を確かめるためには戦前期、特に昭和恐慌期にさかのぼる必要がある。そこで、1920年代の市況等に関し新聞データを用いた再現を交えながら同時期の期待インフレ率を推計した。本研究「戦前期日本経済の期待インフレ率推計」は昭和恐慌研究会(於東洋経済新報社)での発表へのコメントなどをうけて現在改稿を進めている。 後者の、失業の問題に関しては労働者の部門間移転を容易にする賃金体系はなにか、という問題意識を元にサーチ理論を用いたモデル化を試みた。本研究は論文「産業構造の変化と労働力配分のrestructuring-Search理論によるモデル化」(飯田泰之・寺井晃)にまとめられ、2002年度日本経済学会秋季大会にて報告し、現在投稿準備中である。
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