哺乳類のインプリント遺伝子はしばしば染色体上でクラスターを構成し、ドメインとして独特な発現制御を受けると考えられているが、マウス第18番染色体には父性発現インプリント遺伝子Impactがマップされているのみで、クラスター構造を成しているかどうか明らかでない。全貌が見えつつあるマウスのゲノム情報を利用し、対応するヒトの領域と比較しながらImpact周辺遺伝子のアレル別発現解析を行った。インプリンティングを受けないヒトホモログIMPACTの下流には同じ向きに遺伝子HRH4、上流には逆向きにOSBPL1Aが存在する。これらの遺伝子は末梢血でも発現しており、SNPが見つかった前者1例、後者2例について調べたところ、両遺伝子とも両アレル性に発現していた。次にこれらのマウスホモログHrh4およびOsbpl1aを同定し、Impactの近傍遺伝子であることを確認してから発現解析を行ったところ、ヒト遺伝子と同じく両アレル性であることがわかった。ヒトOSBPL1Aに関しては、転写開始点が異なり、より長い転写産物であるOSBPL1Bが報告されており、このmRNAについてもマウスホモログOsbpl1bを単離し、アレル別発現解析を行った。その結果、マウスの遺伝子に関しては、多くの個体で父性アレルが母性アレルに対してやや優勢的に発現する傾向が認められた。プロモーター領域に存在するCpGアイランドは両アレルともに低メチル化状態であるため、基本的にOsbpl1bは両アレル性に発現する遺伝子であると思われるが、Impactプロモーター領域のアレルによるクロマチン構造の差違を反映して父性アレルの優勢発現傾向が観察されたと考えられる。孤立型インプリント遺伝子も距離によっては近傍遺伝子の発現に多少の影響を及ぼす可能性が示唆された。
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