超対称理論の構造理解とその現象論的応用が、この3年間の主たる研究課題であった。その方向にあって、高次元超対称時空の現象論との関わりが重要性を増してきている。特別研究員採用の最終年度においては、高次元超対称理論のより深い構造理解と、その応用を目標とした。 現在実験により確認されている短距離極限の物理の描像は、3世代のクォークとレプトンがゲージ相互作用と湯川相互作用によって力を及ぼしあっているというものである。ゲージ相互作用は、ゲージ原理によって厳しく統制されていて、パラメーターは3つのみである。しかもその3つも、統一理論の枠組では唯1つのパラメーターに収斂するだろうと考えられている。一方、湯川相互作用についてはほとんどその構造に関する理解が無く、実際、標準模型のほとんどのパラメーターは湯川相互作用に関連するものである。 近年のニュートリノ振動実験で明らかにされてきたのは、3世代のクォークが湯川相互作用ではほとんど混合しなかったのに対して、3世代のレプトンは湯川相互作用で大きく互いに混合するという事実である。この事実を説明するための理論的仮説として、「アナーキー湯川相互作用」と「民主的湯川相互作用」とが提唱されていたが、どちらも一長一短であった;前者では1つ偶然が必要であり、後者では1つ余分な仮定が必要であった。 今年度中に執筆、雑誌発表された論文「Geometric Origin of Large Lepton Mixing in a Higher Dimensional Space-time」は、湯川相互作用の構造の起源を高次元時空の幾何に求めるものである。ある種の高次元時空の幾何を仮定すれば、湯川相互作用の「民主性」とそこで必要になる1つの余分な仮定が同時に現れてくることを示したのである。
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