アルツハイマー病患者の脳には、いわゆる老人斑と呼ばれているアミロイド班がみられ、これは痴呆症と関連していることが指摘されて以来、これに関する研究が多くなっている。しかし、最近ではこの老人斑そのものより、アミロイド蛋白の毒性が指摘されるようになっている。この老人斑には3つの特徴、(1)多くの金属イオンが含まれている、(2)メチオニン部位が酸素化されている、(3)本来老化現象と関連している、があるが、全容はほとんど解明されていない。 今回各種アンカーを有する銅(II)錯体と、アミロイド蛋白(1-40)の相互作用をこれまでにない新しい手法、キャピラリー電気泳動法で調べた。その結果、いくつかの銅(II)錯体は、アミロイド蛋白(1-40)と特異的に結合することを世界で初めて明らかにした。また、ある錯体では、過酸化水素の存在下で特異的に結合する錯体もあることを見出した。後者の場合、メチオニン部位の酸素化と関連していることを発見した。これらの結果は、上で述べたアミロイド斑の3つの特徴、ペプチドからなる銅(II)キレートが生体での神経性疾患を引き起こす源になりうるという、という考えで説明できるものであり、これは今後の老人斑形成を考える上で、またアルツハイマー病の予防を考える上で非常に画期的な結果である。
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