本研究の目的は、ビザンツ教会堂からの転用モスクを視野に入れて、コンスタンティノポリス征服後におけるオスマン朝モスクの特質を明らかにすることである。本年度、主題に関わる個別の研究目的は次の3点であった。 1.モスク立面意匠、ドーム空間の構成の特質を明らかにする。 2.米国にて史料調査、および現地での研究発表。 3.ビザンツ時代からオスマン時代にかけての都市構造の推移、モスクの立地に見られる影響を明らかにする。 本年度の研究実績 1.CADソフトと写真画像処理ソフトを用いて、モスク立面意匠、ドーム空間の構成に関する3D図面を作成し、オスマン建築意匠におけるビザンツ教会堂の影響を、立面意匠とドーム構造の2点で比較・考察を行った。立面意匠には、ビザンツ教会堂と初期オスマン朝モスクに共通点(アーチの形式、入口列柱廊の円柱、柱頭、建築材料など)があることが分かった。公表にむけて論文を作成中である。 2.5月15日に米国MIT(マサチューセッツ工科大学Aga Khan Program for Islamic Architecture)において研究発表(題名:Water Supply Systems and Their Impact on Urban Development in Ottoman Istanbul)を行い、米国人研究者との意見交換を行った。 3.MITおよびハーバード大学の付属図書館にて、オスマン時代におけるビザンツ教会堂の改修史(モスクへの改修、補強や災害後の修理を目的とした改修)、および改修工法に関する資料調査を行った(3月31日〜7月15日)。 4.史学者ジェマル・カファダル氏(ハーバード大学)より、氏が公表準備中のオスマン語史料の提供を受けた。その史料は、裁判記録であるが、その中にスルタンの大モスクや給水路に関する裁判の記述があり、その解読を始めた。現在まだ整理中であるが、夏までには史料から得た新情報の整理を完了できる予定である。 5.ビザンツ時代からオスマン時代にかけての都市構造の推移、モスクの立地に見られる影響について、英語論文を寄稿した。
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