本研究の目的はリンパ節外性に発生するBリンパ腫を対象として、臓器の長期炎症が炎症局所からのリンパ腫発症の重要な要因となることを明らかにすることである。 1.甲状腺リンパ腫 (1)染色体分析の結果から2群に分けられる。一方は数的異常を示す群で、甲状腺腫大から受診までの期間が長く、かつ血清中の甲状腺自己抗体陽性率が高い。他方は14q+を示す群で受診までの期間が短く、抗体陽性率低い。(2)甲状腺リンパ腫はATL非汚染地区では全てB細胞性であった。これらの症例で腫瘍細胞内へのEBウイルスゲノムの取り込みを調べたが、大部分が陰性であった。現在はATL汚染地区の甲状腺リンパ腫、その基礎疾患というべき橋本病患者についての病理学的、免疫学的調査を行いつつある。 2.慢性結核性膿胸患者に発生する胸膜リンパ腫 慢性結核性膿胸患者に胸膜リンパ腫が多発している。全国調査の結果(1)患者の年齢は46-81才(平均63才)、男女比は5.2である、(2)全例20年以上の慢性結核性膿胸の経過後に胸腫リンパ腫が発生している、(3)腫瘍細胞はほとんどの場合B細胞性格を示すことが明らかとなった。現在、胸膜リンパ腫の発病背景要因の検討、予後因子の解析のための調査を準備中である。これまでに得た知見から「慢性炎症はその原因を問わずBリンパ腫の発生母地となりうる」ことを示唆している。 3.脳リンパ腫 腎移植患者、AIDS患者に脳リンパ腫が多く発生することが報告され、免疫不全と脳リンパ腫発生の因果関係が想定されている。本邦の脳リンパ腫(97症例)を調査したところ臓器移植、AIDS患者は一例もなかった。免疫学的には全例B細胞性であった。
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