Greensteinや中原らによって観察された担癌マウスにおける肝カタラーゼ活性の低下現象は、癌患者における代謝のdown regulationの理解に一つの手掛りを与えるものとして古くから注目されてきた。また一方、癌細胞自体のカタラーゼ活性が極度に低下していることも知られている。我々は、このカタラーゼ活性低下の機構を分子生物学的なアプローチで解析することを意図し、ラットよりカタラーゼ遺伝子を単離し、遺伝子発現制御の解析を行った。 カタラーゼ遺伝子のプロモーター領域にはTATA boxはみられず、CC ATT boxやGC boxが数個あり、ハウスキーピング遺伝子の特徴を備えていた。また、複数個ある転写開始点からの転写は、ヘパトーマ細胞において、いずれの開始点からの転写も著しく低下していた。さらに、カタラーゼ遺伝子のプロモーター領域とCAT遺伝子との組換遺伝子を作製し解析したところ、カタラーゼ遺伝子の上流4kb付近に、癌細胞において遺伝子発現の抑制に関与するシスーエレメントが存在することが明らかとなった。このシスーエレメントは、遺伝子の0.5kb上流にあっても、また方向が逆であっても遺伝子発現の抑制作用を示した。このシスーエレメントに特異的に結合するタンパクが、正常肝細胞核抽出液中には見られず、ヘパトーマ細胞核抽出液中に存在することが、ゲルーシフト アッセイによって示された。このタンパクが癌細胞において、遺伝子発現を特異的に制御しているトランスー作用因子であるかどうかは、目下、試験管内転写実験で解析中である。 癌における遺伝子発現の異常のメカニズムの一つとして、癌細胞に特異的に発現する転写抑制因子がその癌細胞の(複数の)遺伝子の転写を制御している可能性が考えられる。
|