本研究の目的は化学発癌剤の代謝的活性化に関与している分子種のP450遺伝子多型と発癌との関連を解析することによって発癌への遺伝的高危険度群を同定することにある。本年度は肺癌誘発物質であるベンズピレンを代謝するP450IA1遺伝子の多型と肺癌発生との関連性を検討した。制限酵素のMspIの断片で遺伝子多型があることがRFLPで明らかになった。この多型は遺伝子の3'側に存在し、2種類のhomozygote(A、C型)と1種類のheterozygote(B型)に分類できた。健常者コホートの1500人よりDNAを単離しこれら3型の出現頻度を求めたところ、124名中、A型は60名、B型は50名、C型は14名であった。一方、80名の肺癌患者においてはそれぞれ29名、31名、20名であった。健常者及び肺癌患者の集団から求めた遺伝子頻度、並びに3型の分布パターンは統計的に有意な差が認められた。肺癌への相対リスクをA型を1.0として求めたところB型は1.4;C型は3.1(p〓0.01)で明らかにC型は遺伝的に危険が高いことが示された。肺癌をさらにcell typesに分類して検討したところ、喫煙と最も関係がある扁平上皮癌においては30名中、A型は10名、B型は11名、C型は9名であり、相対リスクはC型においては4.6倍(p<0.01)であった。 一方、ベンズピレンが発癌因子とは考えにくい胃癌患者(104名)、乳癌患者(30名)において検討したところ、遺伝子型の分布パターンは健常者集団と同一であった。以上の結果より、ベンズピレンを代謝するP450IA1の遺伝子のMspIでみられるhomozygous rare alleleの遺伝子型(C型)は肺癌発生に対し遺伝的に高い危険性をもつことが統計学的に示された。今後、A型、C型の遺伝子を構造的、機能的に解析し、相互に比較することが必要である。
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