研究概要 |
タイ国ナラチワ,マレ-シア国ジョホ-ル州ポンチィアン,ムア及びサラワク州サマラハン,ナマンの泥炭地において,植生・気象土壌・水質調査,作物栽培試験を実施した。 主要な研究実績は次のとおりである。 1)バル-ン写真:泥炭湿地林は踏査が困難なため,バル-ン写真による隔測を行ない,若干の実地植生調査をもとに湿地林の植生調査の有効な手法となることを実証し,植生図化を行なった。さらに主要排水路周辺の森林修復状況を経時的に把握する事ができた。 2)植生:泥炭植生の群落単位の決定,種組成の解析,植生変化の追跡調査等を行なった。ムア地区の高木林はフタバガキ科の樹木の生育が限られた林分であり,亜高木林はメラレウカーアルストナの二次林が優占している。二次草原の遷移は1年程度で容易に低木林へ移行している。火入れ,伐採等の人間活動の影響がなければ,森林の復元は比較的容易と推定された。 3)植生生態:自然林内にリッタートラップを設置し2年間の落葉,落枝量を測定し,元素分析を行なった。落葉量は年間を通し,ほぼ一定であり,6.4t/ha/年が土壌に還元された。養分循環量はNで61kg/年であることなどを認めた。 4)微気象:自然林,開墾地で微気象の測定を行ない,上空(13m,23m),地表面における観測値から,蒸発散による消費熱量は純放射量の約80%であることを認めた。さらに,二酸化炭素,メタンの測定を行なうため,熱収支法として,うず積算法による各フラックスの推定法を改良した。本法により泥炭地水田のメタンフラックスは30mg/m^2/hrに達することを認めた。 5)土壌呼吸:自然林,旧開墾地,新開墾地で年間を通じ土壌呼吸量を測定した。CO_2発生量から評価した泥炭の分解量は旧開墾地で42t/ha/年と計算され,自然林の3倍の値を示した。また,泥炭の分解にともなう沈下量は1.8cm/年となり,実際の沈下量(2.5cm/年)の約7割をしめることを認めた。 6)土壌動物:自然林内の大型動物,小型節足動物密度を調査した。貧毛類は泥炭中にほとんど存在せず,浜堤上の砂質土に存在した。自然林内の土壌動物は表層10cmに集中して存在しており,固体数はマレ-半島自然林下で45〜60x10^3,サラワク自然林で110x10^3/m^2を数えた。ダニ類の種多様性は半島部泥炭地で低く,サラワク泥炭の50%以下であった。 7)土壌トレンチ:木質泥炭の不均一性を把握するため,10mトレンチで断面精査を行ない図化するとともに,深さ20cmごとに501の泥炭を採取し,木質部をサイズ別に分散して計測し,元素分析を行なった。自然林下では深さ20cm以下の全層を通じ,直径12.5cmまでの木質が約30%存在するが,表層で少なく,開墾と共に深部まで木質量は減少しており,排水に伴う木質の分解を認めた。樹勢の強い森林下で,生根が木質を破壊し細分化している標本を見い出した。 8)土壌化学性:有機物組成,無機成分,重金属の形態,腐植物質の官能基分析等を行ない,泥炭の化学性の層位による変異,開墾による変化を検討した。水溶性有機物は下層ほど減少し,易分解性有機物は開墾後急速に減少する。腐植物質は開墾後増加する。Fe,Cuは大部分が有機物と強くキレ-トした形態で存在しており,水溶性,交換性Cuの存在量は著しく低い。石灰,微量元素を施用した場合も,中性化によって有機物のキレ-ト力が強まり,有効態量は少ない。 9)土壌溶液,表流水:泥炭から流出する河川水中のCu,Zn量の測定を行なった結果,Znは1ha当たり0.2kg/年 泥炭から溶出するが,Cnは泥炭と強固に吸着して溶出しないことを認めた。泥炭の水溶性Zn量を考慮すると,Znの再吸着の可能性が指摘された。 10)作物生育:トウモロコシ,トマトの栽培試験を行ない,石灰施用によるph矯正効果が著しく高いこと,微量要素の施用がトマトの結実に不可欠なことを認めた。大麦と米の栽培試験を行ない,大麦ではCuとBの欠乏が不粒の原因となること,米ではCuの欠乏が生育障害の原因となることを確認した。泥炭中に存在するフェノ-ル性化合物は植物生育の阻害要因となることを認めた。
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