研究課題/領域番号 |
01041061
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青木 保 大阪大学, 人間科学部, 教授 (80062636)
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研究分担者 |
永渕 康之 名古屋工業大学, 講師 (30208045)
梶原 景昭 大阪大学, 人間科学部, 助教授 (10116014)
友杉 孝 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (30062574)
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研究期間 (年度) |
1989
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キーワード | 文化複合 / 文化多元主義 / 地方都市 / 都市社会 / 文化変化 / 民族性 / 民族政治 / ナショナリズム / 東南アジア / スリ・ランカ / マレ-シア / フィリピン |
研究概要 |
今回の調査研究を通して、本研究テ-マの「文化複合」の問題がきわめて緊急かつ重大な課題であることの認識がますます強くなった。スリ・ランカにおけるシンハラ系人とタミル系人との間の民族問題、マレ-シアのマレ-人、中国人、タミル人の間の微妙な緊張、フィリピンにおける山地民およびイスラム系国民の自治問題等、それぞれに背景と進展の程度を異にしつつも、「文化複合」の問題が最重要の解決すべき課題のひとつとして社会と国家に大きくのしかかっている。しかも、信頼すべき学術的な基礎資料とその分析を大きく欠いたまま事態は深刻な方向へ進んでいる。この事実は、本調査のテ-マの単なる学問的な妥当性を示すのみではなく、研究対象国側からも緊急に調査研究が必要とされていることでもある。それに加えて、今度の調査研究だけをとっても、現地側研究者と共通認識をつくり、共通の研究関心を生み出す作業にはまことにめざましい進展がみられた。 本調査研究では、今回、ヌワラ・エリヤ市、ゴ-ル市およびコロンボ市(以上スリ・ランカ)、コタキナバル市、マラッカ市およびクアラルンプ-ル市(以上マレ-シア)、セブ市、バギオ市およびマニラ首都圏(以上フィリピン)において実地調査と文献資料調査を実施した。調査実施と研究討議に関して、コロンボ大学、マレ-シア国民大学、フィリピン大学、アテネオ・デ・マニラ大学および研究者の緊密な協力を得た。 共通研究課題である地方都市における「文化統合」の問題は、次に述べる各国の各都市において以下のような面で調査研究された。ヌワラ・エリヤ市とゴ-ル市では、行政側の問題への対応と展望、政治・経済・教育の分野における「文化複合」の現状と政策的方途のあり方、宗教と儀礼をめぐる民族的分布、長い伝統をもつ多民族社会およびリゾ-トとしての都市の性格と構造を中心に、調査研究が行われた。マレ-シアでは、旧くからの交易都市マラッカ、新興開発都市コタキナバル市において、マレ-系住民と中国系住民の共存の可能性、さらに少数民と都市環境の問題、政治的系列化と宗教政策をめぐる調査研究を行った。フィリピンでは、経済活動を活発に展開する中国系住民と海外投資(香港、台湾)の活況を中心にセブ市と、山岳少数民の自治と都市における諸民族の共生の問題をテ-マにバギオ市において調査研究を行った。 今回の調査研究を通して、これまでに明らかとなったのは以下の五点である。 1.本調査研究を経て、東南アジア地方都市社会の民族誌的研究に基礎を置く「文化複合」の研究が初めて本格的に着手された。 2.「文化複合」の問題は、国家レベルにおける大問題であるが、今回とりあげた地方都市社会のレベルにおいてその問題は、たとえば居住区の区分、宗教施設の分布など実体的かつ具体的な現れをみせるとともに、地方都市社会においてはこの問題の暫定的な解決の方途、あるいは調整も行われていることが明かとなった。 3.「文化複合」の視点からの地方都市社会の研究は、多民族・複合化を特徴とする都市社会の構造と性格の根幹にかかわる問題提起であり、従来の都市研究を一歩進めるデ-タと理論枠組みの提出が可能となる。 4.このテ-マに関連して、1989年7月に大阪大学人類学講座が主催した国際シンポジウム『国際化と文化摩擦』においても明かとなったように、「文化複合」の問題は日本社会も含め世界大的な問題となっており、東南アジア社会における本調査を基礎としてさらに大きな枠組みによる比較研究を進展するめどがついた。 5.本調査研究のテ-マは、東南アジア諸社会における社会科学者の間に強い共通関心を引き出し、今後にわたる研究協力の展開がさらに確かなものとなった。さらにその成果の一部はシンポジウム開催等によって、ハ-バ-ド大学、ロンドン大学等の研究者との討議に発展し、東南アジア、日本、欧米の研究協力が始まっている、今後この協力態勢をいっそう進める所存である。 なお、成果の一部は、報告書の形をとって刊行作業中であるが、さらに論文、著書を刊行する予定である。学会発表、国際シンポジウムの開催も計画している。
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