研究概要 |
本調査研究は、中国高地(海抜3,000メ-トル以上)に生息する野生ナキウサギを高地適応動物モデルとして確立し、合わせて野生資源として保存することが目的である。 平成元年度は、中国青海省の高地に生息するナキウサギの生態ならびに中国の実験動物、特に開発研究体制の調査を行った。平成元年10月と2年1月の調査の結果、青海湖周辺に多数のクチグロナキウサギ(Ochotona curzoniae,Hogson,1858.中国名;黒唇鼠兎)が生息することを確認した。これらは捕獲も容易で、性質も温順、餌付けや飼育も比較的容易であった。また、中国科学院西北高原生物研究所においてはアルビノナキウサギの飼育を観察することができた。一方、中国実験動物の開発体制は極めて貧弱であり、ナキウサギの動物モデルとしての開発研究は本邦に導入して行うのが最も合理的であると思われた。しかしながら、中国からの野生動物の持ち出しは国策で禁止されており、本邦に野生ナキウサギを持ち込むことはそれが害獣であっても困難であることがわかった。 この調査の過程において、北京農業大学実験動物研究所の中国香猪(ミニブタ)を視察しその情報を得た。 平成2年度は、前年度の調査結果から中国との共同研究によりナキウサギを実験動物として開発し、本邦に導入することを計画した。共同研究は、クチグロナキウサギならびにカンス-ナキウサギ(Ochotona cansas,Lyon,1907.中国名;甘粛鼠兎)の実験動物の開発について行うこととし、青海省中国科学院西北高原生物研究所ならびに上海市中国科学院上海実験動物中心と日本の(財)実験動物中央研究所との間で、研究目的、実施計画、成果の公表・扱い方などについて基本的合意を得た。さらに契約書を作成し意見の交換を行った。しかし、中国での海外共同研究は研究所が合意した後、その地区での国際合作局及び中央(北京)の国際合作局の許可が必要というように手続きが複雑で、今だに許可されていない。中国側の二つの研究所の共同研究のテ-マが互いに近似していることが問題のようである。 共同研究の準備と低地(海抜0m)でのナキウサギの飼育を確認するため、上海実験動物中心において飼育繁殖を試みた。同中心にナキウサギ飼育室を作り、飼育器材を揃え、2年10月にクログチナキウサギ55匹を捕獲し35匹を導入した。飼料は実中研で開発したものを与えた。その後、ナキウサギは徐々に死亡していくという状態が続いたため3年3月に急遽、飼育の現状把握と指導のため研究員を派遣した。 平成3年度は、ナキウサギの生物学的デ-タ収集を目的に、再度、青海省で捕獲し上海実験動物中心で飼育されているクチグロナキウサギの調査を行った。3年度は5月に新たに55匹捕獲し、27匹を導入した。飼育4ヵ月間の死亡率を見ると、1回目(平成2年10月)は30/35匹87.5%であったのに対し、2回目(平成3年5月)は12/27匹44.4%と低下し飼育管理が著しく改善された。また、繁殖のためのペアリングも成功し、ペアリング中に死亡した個体の子宮には着床痕も見られ、近い将来の繁殖成功が期待された。死亡個体の肺には多数の白色結節が認められ、感染症が疑われたため、この対策と調査のため研究者を派遣した。 このように、クチグロナキウサギは性質温順で、中国高地に多数生息し、捕獲も容易であるため、開発に当たって個体を豊富に得らられことがわかった。西北高原生物研究所ではアルビノナキウサギが維持されており、捕獲動物を用いて生物学的特性研究が行われていた。我々は現地において研究体制の調査を行うとともにナキウサギの体温、呼吸数、心臓重量などの測定を行うことができた。クチグロナキウサギの低地での飼育は上海実験動物中心において確認された。今後、中国との共同研究契約がまとまることにより実験動物としての開発研究が大きく進展するものと期待される。以上、3年間の調査研究によって中国高地に生息するクチグロナキウサギの高地適応動物モデルとしての可能性を確認することができた。
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