研究概要 |
1.目的 米国在住の日系二世の前立腺がん・乳がんの罹患率が、日本の日本人のそれより高く、白人の率に近づいているのは周知のところである。しかし、若年時から米国で過ごした一世(若年時移民)での率については不明であった。そこで、ロサンゼルスにおける移民集団(日本人およびスペイン系姓を持つ白人;以下白人とのみ記す)のこれら部位の罹患率(移民時年齢別)と母国での率とを比較することにより、移民時年齢の影響を明らかにしようとした。 2.方法 ロサンゼルスにおける前立腺がん・乳がん罹患率は地域がん登録(CSP:Cancer Serveillance Program、1972ー85)の資料をもとに計算した。移民時年齢は、Social Security Numberを利用して、およそ職業につく年齢(20歳前後)を境に、若年移民と成人移民に二大別した。その場合、この2群の年齢別罹患率の信頼性が落ちるので、全部位の罹患率との比をとって、前立腺がん・乳がんの年齢訂正罹患率比を求め、移民者総計の罹患率に乗ずることにより、それぞれの罹患率の推定値とした。母国(日本の宮城県およびコロンビアのカリ)での罹患率は、Cancer Incidence in Five Continents,Vol.IV & V掲載(およそ1972ー82年のデ-タ)の年齢別罹患率を用いて計算した。年齢訂正のための標準人口としては、1970年の米国国勢調査に基づく人口を用いた。 3.結果 ロサンゼルスにおける前立腺がんの人種別罹患率(人口10万対)は、白人=53.2、日本人=32.2であり、母国における罹患率は、それぞれ35.9、8.4であった。ロサンゼルスにおける乳がんの罹患率は、白人=50.3、日本人=49.4であり、母国における罹患率は、それぞれ41.8、21.1であった。 前立腺の場合、日本の日本人の罹患率を1.0とすれば、成人移民=3.6、若年移民=4.0、米国生まれ=4.1であり、コロンビアの白人の罹患率を1.0とすれば、成人移民=1.5、若年移民=1.5、米国生まれ=1.5であった。乳がんでは、日本の日本人の罹患率を1.0とすれば、成人移民=1.7、若年移民=2.4、米国生まれ=2.6であり、コロンビアの白人の罹患率を1.0とすれば、成人移民=1.1、若年移民=1.3、米国生まれ=1.2であった。 4.まとめ 前立腺がんは成人後の移民によっても罹患率が上昇していることが明らかとなった。一方、乳がんは、成人後の移民においても罹患率はやや上昇するが、若年時での移民の方が大きな影響を受けており、発生にかかわる因子が、若年期に強く働いていることを示唆する成績であると判断した。
|