研究分担者 |
中川原 章 九州大学, 医学部, 助教授
温 博貴 汕頭医学院, 生化学教室, 教授
任 常山 中国医科大学, 腫瘤研究所, 副教授
後藤 貞夫 産業医科大学, 医学部, 助教授 (50131917)
WEN Bo-Gui Dept. Biochem., Shantou Medical College (Shantou, China)
REN Chan Shang Division of Mol. Biol. China Medical College (Shenyang, China)
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研究概要 |
我々は、日本国内における神経芽細胞腫(Neuroblastoma、以下NBと略)の症例を70例以上集め、その遺伝子の異常として、Nーmyc遺伝子の増幅の存在する症例では極めて予後が悪いことを報告した他、Nーmycの増幅を示すものには病理組織学的にも、未分化を示す頻度が高いことを明らかにした^<1)>。しかしながら、多くのNBでは、その病理組織像はRosetteーfibrillary typeであることが多く、より未分化なround cell type、或いは、より良性のganglioーneuroblastomaの各typesなどの症例が少なかった。そこで我々は、より多くのNBの症例を集めてNーmycの増幅と、病理組織像との相関関係を明らかにしたく考えていたところ、中国東北部の瀋陽市にある中国医科大学・腫瘤研究所の分子生物学教室の任常山氏が我々のこの目的に協力してくれることになり、共同研究を始めた。中国は人口がわが国の10倍以上ありNBの症例も豊富であると予想した。 この3年間で、中国東北部地域で27例のNBのDNAを瀋陽市及び、その周水で任氏が集めてくれた。しかしながら、1例のみにNーmyc遺伝子の再配列(rearrangement)を認めたのみで、Nーmycの増幅は1例も検出されなかった。我々が解析した日本の症例、及び米国のデ-タでは、全症例の30%以上はNーmycの増幅を示した。ところが、アフリカ中央部では小児腫瘍の中でNBが極めて少ないこと、イタリアでも日本や米国の報告と比べてNBでのNーmyCの増幅の頻度がやや低いとの報告などがなされてきて、民族の間でのNBの遺伝子的背景の差異が指摘されるようになってきた。そこで我々も中国東北部地域のみでなく、中南部の民族でもNBの症例を集め、中国人の中で共通してNBにおけるNーmycの増幅の頻度が低いことが観察されるかどうかを検討することにした。この目的のために、南昌市の江西医学院・生化学教室の温博貴氏に協力を求めた。その後、温氏は広東州の汕頭大学医学院に移ったが、中南部でのNBの症例は少なく、現在までに、3例(2症例のRosetteーfibrillary typeと、1例のganglioneuroma)のNBが集まったにすぎないが、Nーmycの増幅を検出できた症例はなかった。中南部においては、更に症例数を増やしたく思っている。 NBに関しては、Nーmycの増幅以外に、第1染色体の一部欠損がかなり高い頻度で検出されることが分かってきた。ヒトのNBでは、1p36.1〜36.3の間が高い頻度で欠損していることが分かってきた。一方、第1染色体の1p32に存在するLーmycのRFLP(制限酵素断片多型性)と癌の転移率との相関関係が注目されてきた。NBの病期の判定はいかに広範囲に転移が広がっているかに依存しているかによるといっても過言ではない。そこで我々も日本の国内で集めたNBのDNAを用いてLーmycのRFLPを解析した^<2)>。LーmycのRFLPのS型と高転移率との間に相関関係が存在することが、いくつかの種類の腫瘍では示されてきた。NBでも、Nーmycの増幅が認められ、予後の悪い症例ではLーmycのRFLPはS型を示す頻度が高いことを我々は見いだした。次に、中国東北部のNBから得たDNAで同じくLーmycのRFLPを解析してみると、日本及び欧米の健康人のLーmycRFLPよりもさらにS型が少ないことが分かった。Nーmycそのものは、正常では第2染色体の2P23〜24に位置しているが、NーmyCの増幅が認められる症例の大部分は、Nーmycが第2染色体より他の染色体に転座し、そこで増幅すると考えられており、第1染色体に転座した症例も報告されている。NBにおけるNーmycの増幅と、LーmycのRFLPのS型がはたしてどの程度直接的に関連しているのかに関しては、今後の問題である。今回の我々の観察した中国NBの特長が民族の遺伝子的背景によるものであるならば非常に興味深い事実である。 <文献> 1)Analysis of Nーmyc amplification in relation to disease stage and histologic types in human neuroblastomas.T.Tsuda et al.,Cancer 60:820ー826(1987), 2)Differences of Lーmyc polymorphic patterns of neuroblastoma in patients between less than one year and older ages.T.Murakami et al.,J.Pediatric.Surg.(in press)
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