研究概要 |
アルツハイマ-病は,記憶や学習の障害を呈する代表的痴呆疾患であるが,病理学的には脳の海馬を中心とした神経細胞の消失およびアミロイド老人斑などの出現を特徴としている。海馬の特にCA1錐体細胞は,短時間の一過性脳虚血でも死滅しやすいことが知られており、我々はこの細胞群がこのような虚血などのストレスに対して,その障害を緩和し,正常な機能の回復を早める蛋白質(いわゆるストレス蛋白質,HSP)の産生能力において,他の細胞群より劣っていることを明らかにしてきた。 今年度の研究により一過性脳虚血后に,脆弱な海馬CA1細胞は1日目まで活発にHSP70mRNAを産生し続けているが2日目でこのmRNAは減少してしまう。またこの間HSP70蛋白の産生は極めて少なく,CA1細胞において、一般的な蛋白合成が低下するようなストレスでは影響をうけることのないHSP70遺伝子発現までがtranslationcl levelで障害を被っていることを示唆している。また2日目ですでにHSP70mRNAの消失がみられたことより、trans cripitional levelでも比較的早くCA1細胞が障害されることを示している。これに対して虚血抵性の海馬CA3細胞は2日目まで持続して活発にHSP70mRNAと蛋白を産生し続けることが明らかになった。HSC70mRNAの変化が,HSP70mRNA変化が,HSP70mRNA誘導の部位とほぼ一致したことは,両蛋白のmolecular chaperoneとしての協同的働きを考える上で興味深い。またこ分部位は,正常脳で蛋白合成の盛んな部位と一致することも併せて興味深い。海馬CA1細胞でHSP70とHSC70誘導に解離が見られたことは,似て非なる両蛋白の機能を示唆している。
|