研究課題
国際学術研究
本年度は、前年度に行った大学院教育の全体構造に関する調査・研究を受けて、人文科学から歴史学、社会科学から経済学、自然科学から物理学、そして応用科学から工学のそれぞれの学問領域を選んで、各学問領域における研究後継者の養成システムに関してエスノグラフィックな研究を行った。各学問領域ごとに数校の対象大学院を選び、研究分坦者が直接大学院教育に関係のある人々(教員および大学院生)にインタビュ-を実施した。これらのインタビュ-の結果を、米国カリフォルニア大学ロサンジェルス校で開催された米・英・独・仏・日の研究者からなる国際セミナ-で発表するとともに、その全文を英文にて『名古屋大学教育学部紀要(教育学科)第36巻』に収録した。その要旨は以下のとおり。大学院教育の生産性が授与された学位の数で評価されるとするならば、日本のシステムの生産性の評価は概ね低いものとならざるを得ない。しかし、学問領域によってその様相は大きく異なる。工学では大学院と他の研究機関との領域は瞹昧で相互浸透的である。博士号は大学教員の基礎資格であるが必ずしも大学院教育を通じて得られるのでなく、企業の研究部門で働きつつ論文博士として学位を得る人も多々存在し、そのうちの幾人かは大学へ戻る。この人材の交流が大学と企業の絆を強めている。物理学の場合は、研究と研究者の養成がうまく結合し、博士号が研究者としての基礎資格となっているという点で大学院教育のモデルといえる。しかし、皮肉にも博士号の生産性の高さ故にオ-バ-ドクタ-問題に悩まされている。最も大学院教育の生産性が低いとされる社会科学・人文学科の中で経済学は留学生からの要望や、その方法論が自然科学に近いこともあって博士論文のスタイルも自然科学に類似したものとなり、博士課程内で学位を取得することも可能となってきた。最後に歴史学の大学院は研究と研究者養成との関連でいえば、最も問題が多い領域である。個々の歴史学者の解釈を求める学問の性質からして、大学や大学院は研究及び研究者養成の場として必ずしも重要ではないし、博士号も大学教員・研究者の必要条件ではない。
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