研究課題/領域番号 |
01044077
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 矩行 京都大学, 理学部, 助教授 (30025481)
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研究分担者 |
FEFFERY Will カリフォルニア大学, デイビス校・ボデガ海岸研究所(米国), 教授
JEFFERY Wiliam R. Bodega marine Laboratory, University of California U. S. A. ; Professor
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研究期間 (年度) |
1989 – 1991
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キーワード | 細胞分化 / 筋肉細胞 / 特異的遺伝子 / 発現制御 / 卵細胞質因子 / ホヤ胚 |
研究概要 |
動物の発生において遺伝子の発現を制御する二つの大きな要因として、卵の細胞質中にあらかじめ準備された因子と、細胞間相互作用が考えられている。原索動物のホヤの卵は古くから典型的なモザイク卵の一つとして知られており、前者の卵細胞質因くにより遺伝子の発現制御機構を解析する上で格好の実験系と考えられる。そこでホヤ胚における筋肉細胞分化に的をしぼり、日本側は主として筋特異的遺伝子の解析を通して、米国側は主として細胞質因子の解析を通して、この問題にアプロ-チすることを試みた。 1.筋肉細胞特異的遺伝子の解析:米国側ですでに単離していたシロボヤの筋肉アクチンcDNAをプロ-ブとしてマボヤ尾芽胚のcDNAライブラリ-をスクリ-ニングした結果、少くとも4種類の筋肉アクチンをコ-ドするcDNAクロ-ンが得られた。これら4種はそのタンパク質コ-ド領域の塩基配列は非常によく似かよっていたが、3'非コ-ド領域の塩基配列はお互いに異なっていた。そこでその中の一つHrcMA4の3'非コ-ド領域なるプロ-ブを作り、この遺伝子の発現をノザンブロット法、in situハイブリダイゼ-ション法により解析した結果、HrMA4遺伝子の転写は覆任期から分化しつつある筋肉細胞に限って起こることが明らかになった。次に、この特異的プロ-ブを使ってジェノミック・ライブラリ-をスクリ-ニングした結果HrMA4遺伝子を含む約20KbのDNA断片クロ-ンが得られた。この断片を調べてみるとHrMA4遺伝子を初めとして他に少くとも3つの筋肉アクチン遺伝子がクラスタ-を作って存在していることが明らかになった。またHrMA4遺伝子の解析から、この遺伝子は2つのイントロンによって分断されていること、イントロンの位置は無脊椎動物のアクチンや脊椎動物の細胞骨格型アクチンではなく脊椎動物の骨格筋型アクチンに類似すること、5'上流域にはTATAボックス、CArGボックスを初めとして、MyoD1などの筋分化調節因子が結合すると予想されているEーボックスが少くとも7個存在すること、などが明らかになった。さらにこのHrMA4遺伝子の5'上流域約1Kbに大腸菌のCAT遺伝子をつないだ人為的遺伝子を作り、それをマボヤの受精卵に顕微注入したところ、多くの例で尾芽胚の筋肉細胞に限ってその発現が認められた。このことは、この5'上流約1Kbの中に、この遺伝子の正確な空間的発現を制限するエレメントがそろっていることを示唆する。現在、さまざまな長さの5'上流域とCAT遺伝子との融合遺伝子を作製中であり、でき次第受精卵に注入して調べ、HrMA4遺伝子の発現制御に関わるシスエレメントを検索していく予定である。 2.細胞質因子の解析:ホヤ胚の筋肉細胞分化に関わる因子は卵のマイオプラズムと呼ばれる細胞質部域に存在すると考えられている。日米両側それぞれ独自の研究で、この部域には少くとも10以上の特異的タンパク質が存在することが明らかになっていた。さらにこのマイオプラズムの構成成分を特異的に認識するモノクロ-ナル抗体が12個得られていた。日本側での役割はこの中の一つの抗原タンパク質のcDNAを得てその分子的実体を探ることであった。スクリ-ニングや解析などに2.3年を要したが、つい最近になってほぼ全塩基配列を決定した。他のタンパク質との類似性を検索したところ、細胞骨格系のタンパク質との類似性が認められた。マイオプラズムは特殊な細胞細格系を形成し、それが因子の正確な予定筋肉細胞の配分に役立っていると考えられているので、このタンパク質はそのような役割を担っているのかも知れない。 一方、米国側は、オタマジャクシ幼生(したがって筋肉を作る)を発生させるホヤとオタマジャクシ幼生を発生させないホヤ(したがって筋肉を作らない)の卵細胞質を比較することによって、筋分化決定因子の分子的実体にせまろうと考えた。実際、両国の協力によりこの二種のホヤの卵のcDNAライブラリ-を作り、スクリ-ニングした結果、前者にのみ存在し後者に存在しないcDNAクロ-ンを3種類得た。現在それぞれの全塩基配列の決定を急いでいるが、これまで得られた結果ではその中の一つはその塩基配列中にロイシン・ジッパ-モチ-フを含むことが明らかになった。 このように、遺伝子側および細胞質因子側の両方から研究は進んでおり、将来の研究の展開に期待をいだかせる。
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