研究課題/領域番号 |
01044081
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
田中 信男 京都工芸繊維大学, 繊維学部, 助教授 (60127165)
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研究分担者 |
HAGLUND P. スウェーデン国立環境保護機構, 研究員
BARNHART E.R アメリカ合衆国公衆保健局, 防疫センター, 研究員
PATTERSON D. アメリカ合衆国公衆保健局, 防疫センター, 主任研究員
細矢 憲 京都工芸繊維大学, 繊維学部, 助手 (00209248)
寺部 茂 京都大学, 工学部, 助教授 (50115888)
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研究期間 (年度) |
1989
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キーワード | 芳香族塩素化合物 / ダンオキシン / PCB / 液体クロマトグラフィ- / 電気泳動 / 動電クロマトグラフィ- / 逆相クロマトグラフィ-充填剤 |
研究概要 |
ポリクロロビフェニル(PCB:209種)、ポリクロロジベンゾダイオキシン(75種)、およびポリクロロジベンゾフラン(135種)など、環境科学において重要な芳香族塩素化合物には多数の同族体が存在し、その中の特定の同族体が非常に大きな毒性と変異原性をもつので、これら芳香族塩素化合物の生物学的効果や環境動態などを研究するためには正確な分離、分析手段が不可欠である。本共同研究においては、液体クロマトグラフィ-法および動電クロマトグラフィ-法によるPCBおよびダイオキシン類の同族体および異性体の分離を検討した。目的としたクロマトグラフィ-分離には二つの側面があり、一つは標準品の供給のための合成混合物からの各同族体の分取精製であり、他の一つは環境試料や生物体試料のマススペクトル分析の前段階となる芳香族塩素化合物同族体および異性体の一斉分離である。 第一に、従来困難であった芳香族塩素化合物の高速液体クロマトグラフィ-分離のために、2ー(1ーピレニル)エチルシリル化シリカゲルおよびニトロフェニルエチル化シリカゲル固定相を開発し、最強の毒物といわれる2,3,7,8ー置換体を含む22種のテトラクロロジベンゾダイオキシン異性体の分離に適用して、すべての異性体の相互分離に成功した。これによりすべてのテトラクロロジベンゾダイオキシン異性体をミリグラムスケ-ルで分取精製することができ、標準品の供給を可能とした。また、これまでの充填剤が溶質の疎水性を識別して分離を行うのに対して、これらの芳香族結合型シリカゲル充填剤は溶質分子の立体的構造の差および電子密度の偏りを識別して高い分離能力をもたらし、ダイオキシンの分離定量を妨害し、それ自身環境科学で問題とされるポリクロロジベンゾチオフエン、あるいはPCB、クロロピレン等の同族体の単離精製とともに、多数の構造類似有機化合物、異性体の高速分離を可能とした。 第二の目的についても、これら芳香族結合型充填剤とアルキル基結合型充填剤とを組み合わせることにより、高速液体クロマトグラフィ-によるPCBやダイオキシン同族体および異性体の一斉分離の可能性を示すことができた。 また従来のガスクロマトグラフィ-あるいは液体クロマトグラフィ-法にかわる超精密分離法として、高性能キャピラリ-電気泳動法の芳香族塩素化合物同族体分離への適用を試みた、これまで電気泳動による分離法は、電荷を持たない化合物には適用できないと考えられてきたが、シリカキャピラリ-中に無機電解質を含むミセル水溶液を充填し、水溶性をもつ有機化合物のミセルー水間の分配と、電場の下でのミセルの電気泳動ならびにシリカの表面電荷による電気浸透流とを組み合せて分離を行う動電クロマトグラフィ-は、電荷をもたない化合物についての電気泳動に基づく高性能分離を可能とした。芳香族塩素化合物については、PCBやダイオキシンなど非水溶性化合物の分離を可能とするために、芳香族化合物を選択的に取り込むことのできるシクロデキストリンを水溶性キャリア-としてミセル系に共存させ、ミセル中とキャリア-水溶液中との間の溶質の分配の差を分離に利用した。この新しい動電クロマトグラフィ-法は、マススペクトル分析に必要とされる同一置換度のPCB、ダイオキシンの分離において、現在最も分離能力が高いと考えられているキャピラリ-ガスクロマトグラフィ-によっても分離されない異性体について高い分離性能を示し、これまで困難とされてきた異性体間の分離を短時間で可能とした。 以上のように本研究は、環境動態の把握、生物学的効果の検討の前提となる芳香族塩素化合物同族体の分離について、現在のガスクロマトグラフィ-法以外に液体クロマトグラフィ-ならびに動電クロマトグラフィ-がきわめて有効であり、これまで困難であった芳香族塩素化合物異性体の標準品の供給および同族体の一斉分離の可能性と同時に、これらのクロマトグラフィ-法とマススペクトル分析法との結合が、将来重要な課題となることを示した。
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