研究概要 |
平成元年度に確立した歯周病原性細菌の1つであるPorphyromonas gingivalisの感染実験マウスの血清・唾液中の同菌体表層抗原である線毛タンパク抗原に対する抗体価をELISA法で測定し、非感染群のそれと比較検討した。その結果、血清中ではIgGクラスの抗線毛抗体価の上昇が著明に認められた。また、唾液中ではIgA>IgGの順に同特異抗体価の上昇が認められ,IgA抗体価の上昇は血清中のそれを上回った。しかしながら,IgM抗体価については実験期間中を通じてほとんどその上昇はみられなかった。 同感染マウスの末梢血,脾臓、パイエルG板,腸管固有層および腸管膜に存在するP.gingivalisの線毛タンパク抗原に対する特異抗体産生細胞数をELISPOT法により解析し,その分布や細胞数の増減について比較検討した。その結果,P.gingivalis感染後3日目に腸管膜固有層,5日目に脾臓ならびに末梢血に線毛抗原特異抗体産生細胞(SFC)が認められた。7日〜21日目には主として末梢血にSFCが検出された。その後、腸管膜リンパ節においてもSFCは検出されたが,47日〜61日目には,腸間粘膜固有層においてのみSFCが認められ,他の臓器や組織由来の単核球中には検出されなかった。 米国アラバマ大学バ-ミンガム校のJ.R.Mcghee,H.Kiyonoとともに,歯周病患者の歯肉組織の酵素処理によるリンパ球の分離,調製法の開発に成功し(前年度),これらリンパ球を用いて,歯肉組織中の線毛抗原に対するSFCを検討した。その結果,炎症歯肉中には多くの線毛抗原特異的スポットが観察された。しかし,同一被験者の末梢血や健康歯肉中には,特異スポットは認められなかった。 今後,歯周病患者の歯肉局所における免疫学的所見を検討するとともに,確立したマウスの感染実験モデルを用いて,歯周病ワクチンの開発の基礎的研究をさらに進めていく。
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