研究概要 |
本研究計画では、蛋白質立体構造の構築原理を、構成するアミノ酸残基の役割から明らかにすることを目的としている。具体的には、ヒト・リゾチ-ムと大腸菌のトリプトファン合成酵素αサブユニットの系統的なアミノ酸置換型を用いて、置換型の立体構造の安定性の定量化、置換による機能、構造、構造形成に与える影響を置換残基の特性との関連から明らかにすることであった。その中での特徴的な結果について述べる。 1.変異型ヒト・リゾチ-ムの結果 蛋白質の構造形成(Refolding)の最終の律速段階が、プロリンのシス・トランス異性化反応として説明されている場合が多い。ヒト・リゾチ-ムの変性の復元反応において、2相が観測され、その遅い相がプロリンのシス・トランスの異性化反応によるのではないかと、ニワトリ卵白リゾチ-ムの研究などから推定できた。そこで、ヒト・リゾチ-ムの2個のプロリン(71と103位)が構造形成反応にどのように関与しているかを調べるために、プロリン変異型を作製し、変性と構造形成反応をストップドフロ-法で研究した。作製した変異型はP71G,P103G,二重変異型P71G/P103Gと新たにProを導入した3種の変異型A47P,D91P,V110Pである。2次構造を反映するCDスペクトルは野生型と変異型で全く同じであった。これは、ヘリックス破壊残基といわれているプロリンの変異であるにも関わらず、各変異型の骨格構造は野生型と全く変わっていないことを示唆している。そのため、置換によって構造変化が生じないと仮定して、構造形成過程に及ぼすプロリンの役割を明らかにすることができる。プロリンを一つ欠いたP71GとP103Gの両変異型の復元反応は、速い相と遅い相の2相からなり、野生型との差異は見られなかった。また、2重変異型P71G/P103Gの復元反応も同じように2相であった。新たにプロリンを導入した変異型A47PとD91Pもともに野生型と似た2相の復元反応を観察された。しかし、V110Pの復元反応は新たに更に遅い相が加わり3相となった。この最も遅い相はプロリンの異性化反応によると考えられる。これらの結果は、ヒト・リゾチ-ムの復元反応の2相ともプロリンの異性化反応によらないことを示している。つまり、ヒト・リゾチ-ムのプロリンは構造形成の最終の律速段階に関与しないことが判明した。 2.変異型トリプトファン合成酵素αサブユニットの結果 トリプトファン合成酵素(α_2β_2)の各サブユニット固有の機能(αとβ反応)は、α_2β_2複合体を形成したとき、50ー100倍に増幅される。その増幅機構を解明する手がかりとなる大腸菌のトリプトファン合成酵素αサブユニットのPro変異型を見つけたので、そのαサブユニットの変異型P132Gを用いて、αとβサブユニットの相互作用を等温滴定型カロリメ-タ-(OMEGA,30と40℃)を用いて調べた。カロリメトリ-の結果は次の通りである。1)αとβサブユニットとの結合数の比(1:1)は野生型と変異型とで変化しない。2)変異型の結合定数(K)は野生型よりも2桁低い。野生型はK=1.87×10^6/M。3)変異型の結合のエンタルピ-は野生型の2/3に低下。野生型は40℃でΔH=ー31.1kcal/mol。P132G変異型のαサブユニット固有の酵素活性は野生型と比べほとんど変化しなかったが、βサブユニットとの複合体形成に伴う増幅効果が低下した。この現象はαとβサブユニット間の結合定数の低下によるものであることが判明した。これらとリガンド共存下での結果から、複合体形成による増幅効果は、両サブユニットの結合の強さと密接に関連していることが分かった。 3.国際協力の成果 研究成果の内、Edith W.Milesの協同研究として、かなり質の高い論文を3年間に2報発表することができた。この他の有形無形の国際協力の実績は、両研究者並びに両国の国際交流の発展につながると思われる。
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