研究課題/領域番号 |
01044089
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松原 央 大阪大学, 理学部, 教授 (00028242)
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研究分担者 |
HATEFI Youss Research Institute of Scripps Clinic, Member
大岡 宏造 大阪大学, 理学部, 教務員 (30201966)
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研究期間 (年度) |
1989 – 1991
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キーワード | ミトコンドリア電子伝達系 / 呼吸鎖複合体I / NADHデヒドロゲナ-ゼ / 鉄硫黄蛋白質 / 葉緑体DNA |
研究概要 |
ウシ心筋ミトコンドリアから精製した複合体Iを、カオトロピック試薬によって処理すると、フラビン蛋白質分画(FP)、および鉄硫黄蛋白質分画(IP)が得られる。これらの分画を構成するサブユニットの機能に関する知見を得るため、まず、各サブユニットをクロマトグラフィ-によって分離し、一次構造解析を行なった。次に、解析結果からの推定にもとづいて、鉄イオウ中心を保持したままでのサブユニットの単離を試みた。 FPを還元カルボキシメチル化した後、高濃度の尿素存在下でのゲルろ過によって、51K、24K、9Kの3個のポリペプチドを分離した。このうち、9Kポリペプチドの全アミノ酸配列を、エドマン法などを用いて決定した。総残基数は75個、配列から計算した分子量は8437であった。決定した配列中には、システイン残基はなく、9Kサブユニットは鉄硫黄蛋白質ではないことが明らかとなった。デ-タベ-スでのホモロジ-検索では、類似の構造をもつ蛋白質は見つからなかった。現在のところ、細菌の複合体Iにも、9Kサブユニットに相当するものは見つかっていないことから、このサブユニットは真核生物にだけ存在する成分であると思われた。 IPについても、構成サブユニットの分画を行なった。IPを還元カルボキシメチル化、さらにシトラコニル化した後、尿素存在下でゲルろ過を行なった。得られた画分を、さらに各種のクロマトグラフィ-によって細分画し、75K、49K、30K、20K、18K、15K、13KーA、13KーBの8個のポリペプチドを単離した。これらのうち、20Kポリペプチドは、本研究によって初めてサブユニットとして同定された。 一次構造解析から、2つの13Kポリペプチドは互いに異なる蛋白質であることが判明した。13KーAポリペプチドは96残基からなり、分子量は10536と計算された。13KーBポリペプチドは114残基からなり、そのアミノ末端はブロックされていた。アシルアミノ酸遊離酵素による分析の結果、アミノ末端残基をアセチルアラニンと同定した。配列から求めた分子量は、アセチル基を含めて13130であった。ミトコンドリア電子伝達系で、アミノ末端がアセチル化されている蛋白質が見つかったのは、これが4例目である。また、13KーAポリペプチドには、鉄硫黄蛋白質に共通して見られるシステイン残基の配置があり、IPに含まれる鉄硫黄中心の1つが、13Kサブユニットに存在する可能性が示唆された。実際に、複合体Iの水溶性分画から、分子量約1万2千の茶色を呈する蛋白質が得られたが、詳しい解析を行なうまでには至らなかった。 30Kおよび20Kポリペプチドの部分アミノ酸配列は、葉緑体ゲノムや藍色細菌ゲノムにコ-ドされるORF158とpsbG遺伝子の産物に、それぞれ高い類似性を示した。このことから、ORF158とpsbGは、葉緑体や藍色細菌に存在する複合体I様の酵素複合体の構成成分をコ-ドしていると推定された。一次構造を比較した結果、30Kポリペプチドには、保存されているシステイン残基はなかった。一方、20Kポリペプチドについては、さらに詳細なホモロジ-検索を行ない、細菌のニッケル鉄ヒドロゲナ-ゼの小サブユニットとの間にも有意な類似性を見いだした。比較したすべての配列において、2個のシステイン残基が保存されており、20Kサブユニットが、鉄硫黄クラスタ-の保持に関与している可能性を示唆した。また、49Kサブユニットとニッケル鉄ヒドロゲナ-ゼの大サブユニットの配列間にも、有意な構造類似性を見いだした。実際にIPを界面活性剤によって解体すると、49Kと20Kサブユニットから成る分画が得られた。この分画での鉄硫黄クラスタ-の存在を確かめることはできなかったが、49Kと20Kサブユニットが複合体I内において、1つの構造単位を形成していることは確かと思われた。細菌の酸化還元酵素の中には、ニッケル鉄とヒドロゲナ-ゼの他にも、複合体Iのサブユニットと類似性を示すものが存在する。これらの結果は、複合体Iが他の酸化還元酵素と進化的に関連のあることを示すものであり、複合体Iの構造と機能の関係を調べていく上で、多くの示唆を与えるものと考えられる。
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