成人T細胞白血病の研究

1991 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 01044116
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 熊本大学
• 研究代表者: 高月 清 熊本大学, 医学部, 教授 (80026830)
• 研究分担者: GONGORA Biac ユカタン大学, 医学部, 講師 ; DANIEL Catov ロンドン大学, 医学部, 教授 ; ESTELA Matut ロンドン大学, 医学部, 講師 ; ANUVAT Roong マヒドール大学, 医学部, 講師 ; DAVID Naor ヘブリー大学, 医学部, 教授 ; 宮崎 康二 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (50145322) ; 清川 哲志 熊本大学, 医学部, 助手 (50195400) ; 山口 一成 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (20128325) ; GONGORABIACHI R. Yucaton University ; CATOVSKY Daniel London University ; MATUTES Estela London University ; ROONGPISUTHIPONG Anuvat Mahidol University ; NAOR David Hebrew University, Jerusalem
• 研究期間 (年度): 1989 – 1991
• キーワード: ATL / HTLV・I / HTLV・Iキャリア / HTLV・I抗体 / HAM / TSP

研究概要

ATL、HAM/TSPおよびHTLVーI保有者(キャリア)は日本のみならず、カリブ海沿岸地域、アフリカの一部に多発地域が存在することは既に知られていることであるが、その詳細は不明であった。われわれはこの3年間、国際学術研究プロジェクトの援助により主に疫学調査を中心として多くの成果を挙げることができた。
まず、Londonのカトフスキ-教授との共同研究で英国在住のカリビアンATLおよびカリビアンTSP症例をreviewする機会があり、日本人ATL、HAM/TSPとの比較を行った。その結果、リンパ筋腫脹、肝脾腫、皮膚症状、高カルシウム血症の出現頻度、ATLのsubtype、化学療法の反応性、ATL細胞表面マ-カ-、50%生存期間は日本人とカリビアンATLとの間に差異は認められなかった。唯一の違いは発症年齢で、カリビアンATLは平均43歳(19〜62歳)、日本人の56歳(27〜82歳)に比し若年であった。検索し得た21例のカリビアンATL患者中3例に糞線虫症の合併、1例にHIVーIIの同時感染を認めた。
また、TSPに関しては、1987年末までに18例の黒人患者が把握されており、1例をのぞき女性であった。カリビアンATLとの発症年齢の違いは、平均寿命が若干異なることを考慮したとしても興味深いことである。HTLVーIの感染時期が幼少時期だとすると、カリビアンATLあるいはアフリカ人のATLで発症が早いということに何らかの因子が介在するとの推定も成り立つ。今後の検討課題の一つであろう。
さらに、メキシコ・ユカタン半島の抗体陽性率を検討した。対象はユカタン州立大学野口英世研究所で集められた一般健康人および献血者1820名(平均年齢26忙)、患者222名(白血病、リンパ腫、その他の血液疾患93名(35歳)、その他の内科疾患36名(53歳)、他臓器癌患者72名(53歳)、AIDS患者22名(31歳)、男性同性愛者26名(26歳)、売春婦168名(28歳)、計2236名である。スクリ-ニングとしてPA法を用い、WB法で陽性のものを最終的に陽性とした。その結果、一般健康人および献血者1820名中6名(0.33%)、患者222名中3名(1.35%)、内訳は白血病およびリンパ腫患者2名、他臓器癌患者1名、売春婦168名中6名(3.57%)が陽性である。ユカタン半島ではモンゴロイド系と考えられるマヤ族が現在も居住しており、一般献血者におけるHTLVーI抗体陽性率0.33%は興味深い数字である。今回の調査で血液標本その他の所見から83歳の菌状息肉症と診断されていた患者で、ATLと思われる一例を発見した。
その後、売春婦6名の陽性者を更に詳細に検討した結果、これらのうち3名はHTLVーIIに感染していることが判明した。HTLVーIIは現時点では疾患との関係は不明であるがHTLVーIに近いウィルスとして世界的に研究されているウィルスであり、感染経路、病原性などについて今後の検討が待たれる。
研究プロジェクト2年目は、これまで全く調査のなされていなかったキュ-バについて共同調査を行ったが、きわめて少数例のキャリアしか見出すことができなかった。近接する黒人国家ジャマイカが九州並みの高い陽性率を示すのと対照的であった。キュ-バもアフリカからの移住所が多く住んでいるにもかかわらず、陽性率が極端に異なるのはアフリカの出身地の違い、あるいは混血度の違いなどが考えられる。
3年目は、主にタイ、パプアニュ-ギニア、ブラジルで疫学調査を行った。タイでは極く少数のキャリアしか見出しえなかったが、パプアニュ-ギニアの血清では高い陽性率を示した。しかしこの地域からは最近HTLVーI変異株の報告もあり、われわれが見出しているウィルスも今後、遺伝子レベルで検索する予定である。さらに、ブラジル全土で約60万人から100万人のキャリアが存在し、年間300名のATL患者の発症が推定された。
これまでの日本のATL、HTLVーIの研究成果が広く世界中に還元できたことは本プロジェクトの最大の成果である。

研究成果

• [文献書誌] R.A Gongora-Biachi,K.Takatsuki et al: "A low prevalence of HTLV-I/II infection among eight population groups from Merida Yucatan,Mexico" Journal of AIDS. 5. 104-106 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] P.Hernandez,K.Takatsuki et al.: "Very low seroprevalence of HTLV-I/II in Cuba:Antibodies in blood donors and in hematological and non hematological patients" Vox Sang. 61. 277-278 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Washitani Y,K.Yamaguchi K.Takatsuki et al.: "Serological discrimination between HTLV-I and HTLV-II antibodies by ELISA using synthetic peptides as antigens" Int.J.Cancer. 49. 173-177 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Miyazaki,K.Yamaguchi K.Takatsuki,et al.: "Human T-cell leukemia virus type I infection as an oncogenic and prognostic risk factor in cervical and vaginal carcinoma" Obstet Gynecol. 77. 107-110 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Kiyokawa,K.Yamaguchi K.Takatsuki et al: "Lack of anti HTLV-II seropositivity in HTLV-I associated myelopathy and adult T cell leukemia" Lancet. 338. 451 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Kiyokawa,K.Yamaguchi K.Takatsuki et al.: "Western blot criteria for HTLV-I" Lancet. 338. 312 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] R. A. Gongora-Biachi, P. Gonzalez-Martinz, F. I. Puerto, L. D. Zapata, J. B. Ortiz, K. Yamaguchi, Y. Nishimura, K. Takatsuki: "A low prevalence of HTLV-I/II infection among eight population groups from Merida Yucatan, Mexico" Journal of AIDS. 5. 104-106 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] P. Hernandez, R. J. Rivero, M. S. Ballester, L. L. Navea, E. Matutes, D. Catovsky, K. Yamaguchi, Y. Fukuyoshi, Y. Nishimura, T. Kiyokawa, K. Takatsuki: "Very low seroprevalence of HTLV-I/II in cuba : Antivodies in blood donors and in hematological and non-hematological patients" Vox Sang. 61. 277-278 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Y. Washitani, K. Yamaguchi, K. Takatsuki, et al: "Serological discrimination between HTLV-I and HTLV-II antibodies by ELISA using synthetic peptides as antigens" Int. J. Cancer. 49. 173-177 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Miyazaki, K. Yamaguchi: "Human T-cell leukemia virus type I infection as an oncogenic and prognostic risk factor in cervical and vaginal carcinoma" Obstet Gynecol. 77. 107-110 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T. Kiyokawa, K. Yamaguchi: "Lack of anti HTLV-II seropositvity in HTLV-I associated myelopathy and adult T cell leukemia" Lancet. 338. 451 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より