研究分担者 |
宮地 重遠 東京大学, 応用微生物研究所, 所長 (40013312)
WEHRMEYER W. アールブルグ, フィリップス大学・生物学部, 教授
THAUER R.K. アールブルグ, フィリップス大学・生物学部, 教授
NULTSCH W. アールブルグ, フィリップス大学・生物学部, 教授
GALLAND P. アールブルグ, フィリップス大学・生物学部, 助教授
SENGER Horst アールブルグ, フィリップス大学・生物学部, 教授
五十嵐 泰夫 東京大学, 農学部, 助手 (90114363)
大森 正之 東京大学, 海洋研究所, 助教授 (80013580)
渡辺 正 東京大学, 生産技術研究所, 助教授 (70092385)
加藤 栄 東京大学, 理学部, 教授 (50011515)
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研究概要 |
本国際学術研究開始当初の研究代表者であった宮地は、Senger教授らと(1)緑藻及びラン藻における、光合成量子収率とクロロフィルの低温螢光スペクトルに及ぼすCO_2濃度の影響、(2)緑藻Scenedesmusのクロロフィル合成突然変異株における、クロロフィル合成に及ぼすCa^<2+>の影響について共同研究を行なった。その結果、(1)では、通常の空気で生育した細胞(低CO_2細胞)と3%CO_2で生育した細胞(高CO_2細胞)とを比較し、Chlorella vulgaris llg,Chlamydemonas reinhardtii,Dunaliella tertiolectaで、低CO_2細胞の光合成量子収率が高CO_2細胞のそれより低かった。また、クロロフィル低温螢光スペクトルは710〜740nmの螢光が、680〜695nmの螢光に比べて、低CO_2細胞で顕著に高かった。このことから、多くの緑藻の低CO_2細胞では高CO_2細胞に比べて、励起エネルギ-の分布が光学系Iに偏っていることが明らかになった。また、(2)では、培地中のCa^<2+>濃度の増加に伴なって、暗中におけるプロトクロロフィルとプロトクロロフィリドのレベルが低下し、光依存性のプロトクロロフィリドの還元効率が上昇した。暗中細胞内に蓄積されたプロトクロロフィリドは、Ca^<2+>欠乏状態では、光照射によって分解した。暗中におけるプロトクロロフィリドの還元は、Ca^<2+>不足条件の方が高い活性を示した。これらの結果から、Ca^<2+>がプロトクロロフィリド・オキシドレダクタ-ゼの活性化に重要であることが推定された。 また、都筑はSenger教授と、暗中ではクロロフィルaが蓄積する突然変異株を用いて、クロロフィルbの合成を調べた。レブリン酸を添加してクロロフィルaの合成を阻害し、光を照射したところ、クロロフィルaからbへの変換が分光学的に認められた。その変換は、光合成電子伝達の阻害剤であるDCMUやタンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミドやクロラムフェニコ-ルによって抑えられることが明らかとなった。 大森は、微細藻類の光情報伝達系に関する研究を、Senger教授、Galland博士らと議論しながら遂行した。その結果、ラン藻細胞内にcAMPがかなり多く存在していること、細胞内膜系における信号変換タンパク質であるGTP結合タンパク質も存在することを見い出した。そして、光信号によって細胞内cAMPのレベルが急激にかつ大きく変化することを明らかにし、ラン藻における光信号伝達にcAMPが関与している可能性を示唆した。これらの結果は、Galland博士らが進めている光受容機構の研究やSenger教授らの行なっている光合成の研究と関連深く、特に、光情報の光受容色素であるプテリン系物質の役割や、そのcAMPカスケ-ドとの関連について討論を繰り返した。さらに、大森は、Wehrmeyer教授とも研究交流を行ない、情報伝達の場である細胞膜の構造について、又、ラン藻細胞内膜において光信号受容タンパク質が存在するか否かについて討議し、電子顕微鏡観察による可能性を話し合った。 渡辺は、Senger教授とラン藻光合成器官の光適応について共同研究を行い、(1)環境光のスペクトル分布、(2)光強度及び(3)CO_2濃度の変化に伴なう光化学系I/II反応中心のモル比変化を詳細に検討した。その結果、(1)と(2)では系I/II比が1〜3の範囲で顕著に変動し、(3)の影響はきわめて小さいことが明らかとなった。また、高等植物の葉緑体及びラン藻のチラコイド膜からの色素抽出、HPLC分析により系I反応中心あたり2分子検出されたクロロフィルa'の機能に関して討論し、今後重要となるアプロ-チー生体外におけるクロロフィルa'二量体の作製とそのキャラクタリゼ-ションーについて明確化することができた。 五十嵐は、高温性ラン藻Synechococcus aー1株からCO_2固定酵素であるRubiscoを精製し、その熱安定性を示したが、この結果やこのRubisco遺伝子を大腸菌内で発現させた結果について、さらにまた、極限環境におけるCO_2固定全般に関して、Thauer教授らの得た結果と比較検討し、相違点に関する議論を行ない、今後共同で解決すべき問題について話し合った。 以上のように、本研究は各分担者の協力のもとに、共同研究を中心とする学術交流が有意義に進められ、価値ある成果を上げることができたと考えている。
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