研究課題
中華人民共和国内蒙古自治区は広大な温帯ステップ地帯として概括できるが、近年の農牧経営方式の急速な変化に伴い、草原における長い歴史の中で培われてきた貴重な伝統文化の継続が懸念されてきている。本研究は、内蒙古草原地帯の農牧資源と農牧技術の実態を歴史的過程を含めて明らかにし、資源保護並びに農牧技術の発展のための指針を得ることにある。昨年度の内蒙古自治区西部乾燥地域での調査に引き続き、2年目の平成2年度は7月25日から8月9日まで、錫林郭勒盟内の西烏珠穆泌旗と錫林浩特市周辺の農牧地帯3カ所に於て調査を実施した。調査地点は内蒙古自治区の中間に位置し、最も良く内蒙古の伝統が保存されているところと言われ、土壌・植生・乳製品について調査した。先ず土壌については、植生の差に合わせ西烏珠穆沁旗巴音胡碩〓木の南斜面1カ所、中国科学院白音錫勒定位站の2カ所から採土した。前者は、地下茎のよく発達した草本類が繁茂した栗色土地帯であり、90cm以深にようやく石灰層が出現する優れた土性であった。後者は、標高1100〜1250mの高原地帯にあり、羊原と大針茅の草場が暗栗色土地帯に広がる優良牧地であった。また、植生調査は土壌調査と連動して進められ、これら草原は土壌条件や気象条件と密接な関連を有していると共に、家畜の放牧方法など草地利用技術により影響されてることが確認された。一方、乳製品に関しては、調査時期が夏季の搾乳時期に当たり、訪問したいずれの地区でも冬用の貯蔵食品になるシャルトス(バタ-オイル)やホロ-ト(チ-ズ)の製造が行なわれており、その製造現場も見学した。採取試料の化学的並びに微生物学的性状の解析において、特に乳製品製造における重要な基本操作である発酵に関する微生物相の検討結果は、内蒙古の乳加工技術発展の一助になると思われる。