研究課題
国際学術研究
本プロジェクトはピッツバ-グ大学国際研究センタ-及び都市研究センタ-の国際プロジェクト「国際的視野からみた産業構造変化と地域再生の戦略」と連動する形で展開された。周知のようにピッツバ-グは重化学工業都市から科学・知識集約都市へと転換をはかりつつある。重化学工業の衰退とそれにともなう地域社会の衰退はアメリカのみならず国際的にも先進諸国共通の問題である。その中でピッツバ-グは「シンデレラ・シティ-」として名高い。このピッツバ-グの教訓を国際的な文脈において一般化することは、各国の地域政策に取って有益であるばかりでなく、社会科学としての政策科学の発展にもつながり得るものと考えられる。本プロジェクトでは重化学工業都市からの脱皮をめざしている北九州と尼崎を比較対象として設定し、ピッツバ-グの地域再生戦略の特徴分析を行ってきた。3年間の研究期間の内、初年度はピッツバ-グからの招聘を中心に、立命館大学でのシンポジュウム、北九州、尼崎への訪問調査を行った。2年目は、日本から派遣を行い、ピッツバ-グ大学でのシンポジュウム、ピッツバ-グでの現地調査を行うと同時に、ピッツバ-グのアメリカでの位置をしるため、ボルチモア、サイエンスシティなど他の都市の調査も行った。最終年度については、報告書作成を目標に、焦点を定めた現地調査を派遣、招聘の双方で、ピッツバ-グ、北九州、尼崎について行った。この間の調査研究で明らかになったことは以下の通りである。第1に地域経済再生戦略の方向性についてである。ピッツバ-グはいうまでもなく、鉄鋼の町として国際的に知られているが、衰退している鉄鋼の再生は課題としていない。鉄を含む重化学工業は国際分業において譲り渡す分野と位置づけられ、より先端的な分野へ移行すべきであるとされた。もちろんこれには労働組合等の反対もあるが、戦略的方向としてはほぼ合意を得ている。問題はそれに変わる方向である。70年代のいわゆる「ルネッサンス2」の時期には、大企業本社改築を中心にした都市開発と連動し、「本社の街」というコンセプトが打ち出され、80年代後半からの「21世紀戦略」においては、大学の研究機能と先端産業誘致とを合わせた「科学集約型都市」のコンセプトが打ちだされた。このように戦略方向をコンセプト化して明示するところに一つの特徴があるが、その際、地域が持つさまざまな資源を生かし、国際的レベルでの都市間競争を考慮して、「比較優位」を押し出すことを試みている。周知のように、比較優位は国際貿易における概念だが、ピッツバ-グではそれを地域再生戦略のキ-ワ-ドとしている。第2に、地域再生のにない手についてである。ピッツバ-グはアメリカの中で、パブリック・プライベ-ト・パ-トナ-シップで有名であり、日本における民活型地域開発との比較は有意義である。日本との相違のポイントは私的営利企業と公的セクタ-との直結ではなく、さまざまな非営利組織がコ-ディネイト機能を担っていることである。その中で特に有名なのはアルゲニ-地域開発協議会(ACCD)であり、70年代までのピッツバ-グ・ルネッサンスを主導した。ACCDは依然として重要な担い手であるが、80年代以降は新たなにないが形成されている。そのひとつは大学で、ピツバ-グ大学、カ-ネギ-・メロン大学のふたつの有力な研究大学が科学集約型都市の構成要素となっている。もう一つはコミュニティレベルでの非営利開発組織(CDC)であり、住民と専門のプランな-によって構成されるある種の協同組合的組織が、人口1万人程度のコミュニティ-ごとに組織され、それを財政的に支援する機構も形成されている。第3に、政策目標と結果の定量化である。政策目標はしばしば抽象的で、従って成果の評価も恣意的に陥り安い。ピッツバ-グの場合、それは端的に就業者数と人口の増減によって評価する。地域の衰退とは何よりも就業機会の減少とその結果としての人口減として現れるとの認識からである。以上これまで断片的にしか日本に紹介されなかったピッツバ-グの経験を、日本の地域開発の視点から総括的にとらえることにかなり成功したといえる。
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