研究概要 |
当初の研究目的は,「原始テクネチウム」が現在も地球上に残存することの証明であった。しかし,1990年7月にLos Alamosの研究所のRokop博士から連絡があり,Tcの検出のために特に開発した超高感度の質量分析計で測定を試みたが,否定的な結果を得たとの手紙を受け取った。この情報を基に真剣に検討し,次のように計画の重点を修正し,研究計画の実験上の目標を設定した。 (1)原始テクネチウムの残存をなお証明する試み。MnがTcと同旅であることに着目し,深海底で採取されるマンガン団塊中の白金属元素と共にTcの検出に挑戦する。これはPIXEによる測定を進めている。 (2)原始太陽系あるいは地球形成の初期にTcが存在したことの証明。この目的のために,地球上の岩石や鉱物,及び,隕石の中のMoの同位体存在比を高精度で測定する質量分析上の技術,特に,イオン源の技術を開発した。地球上の四個の輝水鉛鉱の同位体変動は,2x10^<ー5>以内であった。最近,隕鉄からMo,Ru,Zrを化学分離することに成功し,隕鉄のMo,Ru,Zrの同位体測定が近く行われる予定である。火星起源といわれるザガミ隕石中のMoの同位体比測定の準備も進行中。 (3)Moー100及びZrー96の二重ベ-タ壊変の半減期測定。本計画は,当初から本研究課題の副テ-マであった。この目的に必要なジルマンからの超微量のMoの分離,輝水鉛鉱からの超微量のRuの分離の方法を試験中である。その方向への一歩として,ウラン鉱物から自発核分裂で生じたRuの同位体比の測定を試み,それに成功した。一方,輝水鉛鉱中でのRuー100の生成の研究に必要な,輝水鉛鉱の信頼できる年代測定法の開発に成功した。(2)で述べた,Moの同位体比測定に関する感度と精度の向上に直接あるいは間接に寄与するいくつかの技術的進歩は,この(3)の研究にとっても重要である。
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