研究概要 |
Protein KinaseC(PKC)群は外界情報の受容伝達の主軸として多岐の生理活性物質による細胞機能の調節に深く関わっている。4か年にわたる本研究はPKC群を介する細胞内情報伝達機構の化学的基盤と生理を解析し、病態分析等へ応用することを目的として以下の研究を行った。本酵素群には多くの分子種が存在し、cPKC、nPKC、aPKCの3グループに大別されるが。私どもはα,βI,βII,γ,δ,ε,ζ,分子種の構造を明らかにし、これらの分子種の精製方法の確立とその酵素学的性質の検討を行い、また、各分子種に対する特異抗体を作成しその発現を検討した。その結果、それぞれの分子種が特徴的な活性化様式、基質特異性、組織分布、細胞内局在を示すことを明かにした。これらの基礎的研究に基づき、神経系、免疫系、各種培養細胞等を用いてPKC分子種の具体的機能の検討を行なった。ことに中枢神経組織ではプレシナプスからの神経伝達物質の放出反応には特定の分子種が関与し、また、逆行性伝達物質と想定されている不飽和脂肪酸がジアシルグリセロールによるPKCの活性化を相乗的に高めることが示され、長期増強(LTP)等にプレシナプスにおける不飽和脂肪酸の作用点の一つとして注目されている。一方、Tリンパ球等を用いた実験により、ホスホリパーゼA2反応の産物であるリゾレシチンがPKC経路を促進増強することが示さた。すなわち、ホスホリパーゼCにより産生されるジアシルグリセロールをセカンドメッセンジャーとするPKCの活性化以外に、ホスホリパーゼA2系による調節機構が存在することが強く示唆され、ホスホリパーゼDによる持続的ジアシルグリセロール産生と合わせて。外界刺激により惹起される細胞膜リン脂質代謝回転の生理的意義の全容が明かにされつつあり、本情報伝達機構研究による病態分析への道を拓き、当初の目的を達成した。
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