研究課題
産業技術形成の歴史的研究に必要不可欠な歴史資料の系統的保存が極めて貧弱な日本の現状に対し、資料の積極的な活用の意義を提示すべくその具体的方法をさぐった。本研究では2つのアプロ-チがとられ、ひとつは欧米での産業技術史資料の活用の現状を検討することを通して日本での有効な活用方法をさぐる試みであり、もうひとつは産業技術史を中心とした日本の歴史資料の活用の現状を明らかにしながらその改善方法をさぐる試みである。全体研究会を一回持ったあと、関東と関西でそれぞれの研究会を計7回開催し、以下のようなテ-マで検討を行った。諸外国の産業技術史資料の活用の現状については、(1)スイス・イギリスにおける博物館の状況、(2)イギリスの博物館建設とトラストの関係、(3)ドイツでの大衆参加型博物館の起源、(4)アメリカ電気電子学会の電気技術史センタ-での資料保存体制、の各テ-マで報告・検討が行われた。また、日本の歴史資料の活用の現状については、(1)産業遺産の保存問題、(2)製鉄技術遺産の保存問題、(3)土木文化財活用の現状、(4)地域文化財活用の意義、(5)地域活動としての産業技術史資料活用の可能性、(6)博物館の標本整理の技術的問題、(7)植物標本資料の保存の現状、など広範かつ具体的なテ-マで研究会が持たれた。欧米や日本での産業技術史資料の活用の現状が明らかにされると同時に、資料のより積極的な活用の意義として、技術者の職業意識向上に有効であること、伝統技術の維持に役立つこと、あるいは、世界の各地域との交流の手段として有効であること、などが明らかにされて歴史資料活用の新たな側面も確認された。以上の研究成果は、日本産業技術史学会会誌『技術と文明』にその一部を発表する予定のほか、当研究の報告書の形でもまとめられる。
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