研究課題/領域番号 |
01301059
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
玉泉 八州男 東京工業大学, 工学部, 教授 (80016360)
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研究分担者 |
服部 隆一 東京工業大学, 工学部, 助教授 (70156355)
野崎 睦美 東京工業大学, 工学部, 教授 (70016632)
篠崎 実 東京工業大学, 工学部, 講師 (40170881)
新谷 忠彦 明治学院大学, 文学部, 教授 (00062183)
青木 信義 山梨大学, 教育学部, 教授 (80020311)
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キーワード | 自覚的作家意識 / 伝統による個性の相対化と正当化 / 幾何学的・建築的創造力 / 外側からの類型的描写 / 怒りと卑俗趣味 / 二極構造の魅力 |
研究概要 |
ベン・ジョンソンは作家意識を自覚的・戦闘的な姿勢にまで高めた、イギリスで最初の劇作家である。これは強い個性と自己衿持、それに学歴コンプレックスが絡み合って現われる権威主義の一変種なのは確かだが、それだけでは説明できない複雑な側面をもっている。まず、「文学」の輪郭にしても、彼は個性の産物としての作品に本質的な意義を認めず、古典的規範に照らして標準に達しているか否かを問おうとする。だが、伝統による個性の相対化には常に自己正当化の衝動が忍びよる。結果として、〈形式〉さえ整えば、いかなる奇矯な実体をも許容しうるという事態が生ずる。自己規制は自己拡大の安全弁として作用するということだが、ここに彼の高踏的な作家意識のはらむ危険の一つがある。 この高踏主義が、人間を外側から類型として眺め、風俗の鑑を提示しようとする古典的な気質理論や喜劇理論とどこか類縁関係にあるのは、容易に想像がつく。物語風の展開より、建築的創造力による徹底した構成美の世界を志向するのもうなずける。幾何学的・建築的なジョンソン喜劇の世界は演劇そのものの発展に伴う見巧者の要求の反映であったとしても、作者自身の体質に根ざした形式でもあったのである。 後期に近づき、宮廷劇に筆を染めると、この高踏主義はさらに磨かれ、寓意により一段と武装を強化することとなるだろう。だが、そこがジョンソンの面白いところで、彼は高踏派を目指しながらも、決して超然と構えていることはできない。眼が見えすぎてしまい、現実の悪弊ないし彼がそう考えるものに対して、怒れる若者のごとく直ちに反応してしまう。しかも、その<怒り>に自から辟易し、その自己風刺にドラマをみることさえある。スカトロジカルなヴィジョンと併せて、この絶えず卑俗に流れがちな傾向との葛藤に、高踏派ジョンソンの真骨頂があり、二極構造をもつ彼のドラマの豊かさがある。
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