膜蛋白質の構造決定因子の解明と結晶化技術の開発

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01304061
• 研究機関: 理化学研究所
• 研究代表者: 神山 勉 理化学研究所, 生物物理研究室, 研究員 (30170210)
• 研究分担者: 三木 邦夫 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教授 (10116105) ; 白木原 康雄 兵庫教育大学, 自然系物理, 助教授 (20150287) ; 岩佐 達郎 姫路工業大学, 理学部, 助教授 (00133926) ; 冨岡 明宏 東京大学, 工学部, 助手 (10211400) ; 楠見 明弘 東京大学, 教養部, 助教授 (50169992)
• キーワード: 膜蛋白質 / 結晶化 / バクテリオロドプシン / チトクロ-ム酸化酵素 / 光反応中心 / F1ーATPase / べん毛モ-タ- / 生体膜

研究概要

膜蛋白質など疎水性蛋白質の結晶化法の確立を目指して、(1).蛋白質の構造安定性に及ぼす諸要因の把握、(2).結晶化条件の精密化,を柱に研究を行なった。研究対象としては、光合成関連蛋白質,チトクロ-ム酸化酵素,H^+ーATPase,バクテリオロドプシンならびにロドプシン・ファミリ-の諸蛋白質,べん毛モ-タ-,遺伝子組換え蛋白質RecA,それにアクチンを取り上げた。班活動の重点は,個々の蛋白質の結晶化において遭遇するであろう困難を議論し、互いに啓蒙し、励まし合うこと、とし、班員以外の方々の協力も得て研究会を開催した。日本における蛋白質結晶学はあまり盛んでないとばかり考えていたが、大盛況であった。考えを改めねばならない。今まで、潜在的な研究者の数を正確に把握していなかったのに過ぎない。ともかく、この研究分野は大いに発展するであろうと確信できた。この様な状況は、今まで孤軍奮闘の形で結晶化に取り組んできた研究者に多大な精神的援助を与えるものであり、この一点だけにおいても当班の存在価値はあったものと信ずる。また、班活動を通じて、新たな研究交流が生まれ,いくつかの共同研究が開始された。それらが実を結ぶまでにはかなりの時間を要するかも知れない。蛋白質の結晶化には地道な忍耐強い研究が必要であり,長期的な視野にたった研究支援体制を組織することが望まれる。
個々の班員の研究成果については,班員間での研究の位相の差を考えると一律には評価しにくい。班全体で眺めるならば,結晶化に成功した膜蛋白質は4種類(バクテリオロドプシン,チトクロ-ム酸化酵素,光反応中心,F1ーATPaseのサブユニット)に増え、大きな前進であると考える。結晶化法に関しても、2種類の界面活性剤を組み合わせる方法や温度を変える方法が開発され、結晶安定化に働く添加剤が見いだされた。また、膜蛋白質の大量発現の成功など、価値ある研究も行なわれた。

研究成果

• [文献書誌] NasudaーKouyama,A.,Fukuda,K.,and Kouyama,T.: "Effect of a lightーinduced pH gradient on purpleーtoーblue and purpleーtoーred transitions of bacterioーrhodpsin." Biochemistry. 29. 6778-6788 (1990)
• [文献書誌] Shirakihara,Y.,Yohda,M.,Kagawa,Y.,Yoshida,M.,and Yokoyama,Y.: "Purification by dyeーligand chromatography and a crystallization study of F1ーATPase and its major subunits,α and β,from a thermophilic bacterium,PS3." J.Biochem.
• [文献書誌] Yoshikawa,S.,ShinzawaーIto,K.,Tukihara,T.,Abe,T.,and Caughey,W.S.: "Crystallization of beef heart cytochrome C oxidase" J.Cryst.Growth.
• [文献書誌] Kamiya,N.,Shiro,Y.,Iwata,T.,Iizuka,T.,and Iwasaki,H.: "Heme environmental structure of a novel artificial myoglobin with closed heme pocket: siteーspecific chemical modification producing distal Nーtetrazolylhistidine E7 by cyanogen bromide and azide ion." J.Am.Chem.Soc.
• [文献書誌] Magariyama,Y.,Yamaguchi,S.,and Aizawa,S.: "Genetic and behavioral analysis of flagellar switch mutants of Salmonella typhimurium." J.Bacteriol.172. 4359-4369 (1990)
• [文献書誌] Tsuda,M.,and Tsuda,T.: "Two distinct light regulated Gーproteins in octopus photoreceptors." Biochim.Biophys.Acta. 1052. 204-210 (1990)
• [文献書誌] 池上 明: "生命科学の基礎6:生体膜の分子素子・分子機械" 学会出版センタ-, 341 (1990)
• [文献書誌] 三木 邦夫: "新生化学実験講座第1巻" 東京化学同人, 20 (1990)