研究課題
本研究は、昭和59年以来続け、昭和59・60年には「日本における漁民と漁具の史的研究」として、文部省科学研究費補助金を得た研究を更に発展させることを目的としたものである。前研究は広く日本全体を視野に入れ、分析の課題と視点を確定せんとしたものであるが、今回の研究は、その研究ではっきりしてきた問題関心から、対象を日本の中心都市であり、また江戸時代には江戸という巨大都市とのかかわりのなかで漁業を発展せしめた、東京内湾をとりまく房総から伊豆半島にかけての地域に限定し、自然と人間のかかわり方も視野に入れながら海に生きる漁民の姿を分析せんとしたものである。今年度は、第一に房総から伊豆にいたる海付き村の概要と史料の所在、更に新たな史料の発掘収集につとめた。第二に、この地域に残存する諸統計の分析をとおして、それぞれの地域の漁業の特徴を把握することにつとめた。第三に、九十九里浜の地曳網漁業、西伊豆土肥町の関家・鈴木家文書の分析をおこなった。第一については、史料の所在目録を、当該期間中に公刊する予定である。第二については次年度中に発表を予定している。第三については、今年五月に刊行される日本常民文化研究所論集5号において「近世雇傭の一断面一地曳網漁業を中心に」として発表する。この論稿は、地曳網という多量の労働の編成を必要とする漁業の展開が如何なる市場の展開によって生み出され、そのもたらす労働力需要の拡大が、農村や農民の生業、生活にいかなる変化をもたらしたのか、すぐれて、幕末期における労働市場のあり様の変化、都市と農村を結ぶ市場の変化の問題として分析を試みたものである。これら三点に及ぶ今年度の成果は、次年度以降の当該補助金にもとづき、研究をより効果あらしめるものとして計画され、また調査研究を進めたものである。
すべて その他
すべて 文献書誌 (1件)