研究概要 |
岩石あるいはそれを構成する鉱物の変形,再結晶,結晶粒成長に,“水"が重要な役割を担っていると考えられている。地球科学的に興味ある種々の岩石を構成する鉱物,特に石英,に着目して鉱物中の“水"の存在形態,分布およびその存在量を顕微FTIR法によって検討している。今年度明らかになった事柄を列挙する。 変形後に熱変成を受けた花崗岩中の石英について検討し,“水"の存在形態を3つのタイプに分類,再結晶・粒成長との関連を考察した。また,“水"の存在量の定量化についても成果が得られ,現在まとめている。 1,石英の結晶構造を構成する微量元素として存在する水素で,珪素をアルミニウムで置換した時の電荷の不足を水素が補う形で結晶構造中に入っている。この時の赤外スペクトルは一般的にシャ-プである。 2,石英中に入っているが結晶構造を構成する元素としてではなく,流体包有物として存在している。この場合の赤外スペクトルは非常にブロ-ドである。このブロ-ドなスペクトルは冷却実験から2つに分類できる。 イ,冷却下で得られるスペクトルの波数が大きくシフトする。この場合の“水"は凍結して氷になるような水で単純な水分子の集合体と見なせる。これは電顕から肉眼サイズの流体包有物中の水である。 ロ,冷却下で測定しても,スペクトルのシフトがなく,常温で測定したと同じ波数でブロ-ドなスペクトルを示す。この“水"は水分子の集合体(クラスタ-)や固体表面に形成されるOH基のような“水"で凍結しない。 3,熱変成によって形成された再結晶石英と変形時の状態を持っている非再結晶石英中の“水"とでその存在形態が系統的に変化することから,再結晶・粒成長に“水"が大きな役割を担っていると推察した。 セン断帯の花崗岩中の石英の“水"について検討した。その結果,変形が強くなると石英中に存在する“水"の量も増加することから,変形と“水"が密接に関連していることが推察された。また,この“水"は大部分が冷却下で凍結する単純な水分子の集合体であることも明らかになった。しかし,何故増加するのか,あるいは変形時の“水"と存在形態は同じであったのかについては実験的な研究の必要性がある。また,動的再結晶の過程での“水"の存在形態・存在量・分布とその役割について検討する予定である。
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