研究概要 |
天然の石英の結晶粒成長での“水"の役割に関する研究を進めるともに,再結晶過程で重要と思われている“水"の化学種とその存在量を定量化するための研究を進めてきた.以下に今年度の成果について記述する. 鉱物中での"水"がどのような化学種として存在するかについてはいくつかの提案がされているが,流体包有物中の水のようなものと違って,構造(格子欠陥部分も含む)中に特定の形で配置された"水"がある.この様な"水"による赤外吸収スペクトル強度は結晶方位依存性を示す.さらに,石英のような光学異方体中の"水"の量を測定する場合には,観測されるスペクトルに入射赤外光の部分偏光性や石英の複屈折の効果が入るため,測定法に特別の注意を要する.この様な光学的異方体に対する測定法と"水"に関する精密な情報を得る方法を確立した(現在投稿中).また,OHの形で結晶構造中の特別の位置・方位をもって存在する水素の構造中での配向を精密に決定する方法も確立しつつある. 地質条件の大きく違う2地域の石英(いずれも変成作用を受けている岩石中の石英)の再結晶過程での"水"の存在形態と存在量の変化やX線法による結晶内歪の変化などから,再結晶過程での核形成と粒成長の段階で"水"の働きが大きく異なっている可能性が明らかになった.即ち,"水"が転位すべりに大きく関与している場合(再結晶核の形成)と粒界拡散に大きく関与している場合(主に粒間の流体として溶解・沈澱による結晶粒成長)とがある.調査地域は比較的地下の浅い部分で変成作用が起ったと考えられる.従って,地殻上部ではどちらの機構が働くにしても,"水"が岩石・鉱物の構造・組織の形成機構に重要な役割を果たしていることが明らかになった(準備中).
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