研究概要 |
本研究計画の最終年度(第4年度)にあたる平成4年度では、従来より研究を進めてきたπ共役系高分子ポリジアセチレンの非線形光学特性の実験的・理論的研究の成果に基づいて、平成3年度に新しく取り上げたσ共役系高分子ポリシランの非線形光学特性の精密な測定とその理論的解析の努力を集中的に行った。この結果,π共役系とσ共役系とを問わず各種の高分子半導体では,その主鎮止に非局在化した励起子状態がその非線形光学応答に支配的な役割を果していることを明らかにすることができた。 まず、σ共役系高分子の非線形光学応答の全貌を明らかにするため,一次元系として最も基本的な構造を有する全トランス型ポリシラン(ジヘキシル・ポリシラン)の薄膜について,3次高調汲光発生,2光子吸収,電場変調吸収,電場誘起2次高調波光発生の各スペクトルを,可能なかぎりの広いレーザー光汲長範囲にわたって精密に測定した。これらの非線形光学応答には,それぞれ異ったタイプの多光子共鳴過程が関与している。実測された各スペクトルには。ポリシランの一次元励起子状態の内部構造を敏感に反映した共鳴構造が見出され,これによって高分子半導体に特有な一次元励起子状態の性質が,従来にない細部にわたって詳細に明らかにされた。 ついで,これらの実験結果を理論的モデルにより定量的に解析する試みを行った。理論解析に関しては、電総研・阿部修治氏らの物性理論研究者の助力を得て解析を進めた結果,各種の非線形光学スペクトルが共通の一次元励起子モデルによって。ほゞ完全に理解できることが明らかになった。この結果によると,ポリシランやポリジアセチレンのような典型的高分子半導体は,分子レベルでの理想的な量子細線材料とみなすことができる。
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