研究の対象は大きく次の2つに分けることができる。 1.多孔質膜に界面活性剤を浸み込ませた人工膜。 多孔質フィルタ-に界面活性剤を浸み込ませた人工膜は、パルス刺激電流に対して生体膜と同じ様な一過性の興奮電位を発現することが明らかになった。すなわちソルビタン・モノオレエ-トを浸み込ませたニュ-クリポアフィルタ-を濃度の違うKCl水溶液で挟み、いろいろな高さのパルス刺激電流を膜を通して流すときの応答電位を調べた結果、刺激電流の高さがあるしきい値を越すと矩形波型の興奮電位を発し、更に電流刺激の高さを連続的に増大させると興奮電位の高さはとびとびに大きくなり、静止電位への緩和は階段状に減少するという特異な現象を見いだした。 2.油/界面活性剤水溶液の界面系。 U字管の底にニトロベンゼを入れ、左右の腕の一方にNaClの水溶液を他方に界面活性剤であるオレイン酸ナトリウムの水溶液を入れ、その濃度を調節すると、ある範囲で10分程度の周期の自励電位振動が発生するが、自励振動が起きない条件下でもクランプされた定電流あるいは定電圧の直流的刺激を加えることによって、同じ様な振動が発生することが分かった。さらにこの電位振動の発生時には界面近傍で界面活性剤水溶液の対流運動に乱流化が起こっていることが分かり、いわゆるマランゴニ-対流の乱流化への成長など、流体力学的不安定性も関係していることが分かった。 以上の2つの現象はいずれも流体のヘテロ界面での化学反応がからんだイオンの出入りに関する能動的な現象である。その完全な制御は前途多難であるが、ヘテロ界面の舞台でイオンという役者に芝居を演じさせるとき、半導体とは違ったイオンの選択的透過などセンサ-にとって重要な新しい機能が生み出される可能性がある。
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