本研究は、ホットエレクトロンの波動現象について横超格子構造に焦点を絞って理論的、実験的に研究を行い、学問的知見を得ると共に新原理の超高速デバイス実現の基礎を築くことを目的として行ない、以下に示す成果を得た。 1.理論的に横超格子構造を用いた電子波回折現象観測の条件を明らかにした。すなわち、電子波の位相に影響を与える散乱現象を研究し、観測のために必要なホットエレクトロンの波長(20nm以下)、伝搬時間(0.1ps以下)、媒質の不純物濃度(10^<15>cm^<-3>以下)、温度(77K以下)を明らかにした。 2.実験面では、電子ビ-ム露光法とウェットケミカルエッチング、OMVPE埋め込み成長を用いて、70nm周期横超格子構造の形成を達成した。また、再成長界面の改善のために、硫安及び熱による表面処理の最適化を行い、再成長界面でのキヤリヤ蓄績を一桁以上も減少させることができた。これにより大気中での加工後に埋め込み再成長することで、電気的に優れた特性を有する極微細構造の形成が可能との見通しを得た。 3.ホットエレクトロントランジスタ構造作製においてOMVPE結晶成長条件の改善により、非常に高いホットエレクトロン輸送効率を持つ(40nmを99.7%の電子がホットの状態で伝搬した。これは電流増幅率に換算して400以上)デバイスを得た。このデバイスを用い、新たに提案した測定法により、ホットエレクトロンの位相コヒ-レンスを求め、緩和時間が0.1psのオ-ダ-であることを初めて明らかにした。 以上、超微細ピッチ横超格子構造作製の方法を開発し、さらにGaInAs/InP中でのホットエレクトロン伝搬の位相コヒ-レンス時間を見積り、回折の可能性について見通しを得た。これらを基礎に電子波回折を達成することが今後の課題である。
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