研究概要 |
今年度の研究経過および得られた成果を以下に列記する。 1.重量平均分子量M_〓が3.02×10^2から2.83×10^6の範囲の22のアタクチックオリゴおよびポリメタクリル酸メチル(aーPMMA)試料について,アセトニトリル中44.0℃(Θ溶媒)における固有粘度[η]を測定した。用いたすべての試料は,平成元年度に行ったアセトニトリル中44.0℃における平均二乗回転半径〈S^2〉ならびに塩化nーブチル中40.8℃(Θ溶媒)における[η]の決定に用いたものと同一のものであり,ラセモダイアドの分率f_rはM_〓によらず一定値0.79である。高分子量試料について,2つのΘ溶媒中における〈S^2〉の値に差がないにもかかわらず,[η]の値には実験誤差を超える明かな差が見られた。このことは,高分子量の非摂動屈曲性高分子鎖について高分子あるいは溶媒の種類によらない普遍量と考えられてきたFloryーFox定数Φが溶媒に依存することを示唆する。Φが溶媒に依存する場合の[η]のデ-タ解析法を考案し,らせんみみず(HW)モデル理論を用いて今回の[η]のデ-タ解析を行ったところ,〈S^2〉並びに塩化nーブチル中での[η]の解析結果と矛盾のない結果が得られた。(Macromoleculesに投稿,印刷中) 2.上記のaーPMMAのうちM_〓が1.10×10^3,2.95×10^3,1.09×10^4,および1.19×10^5の4試料について,X線小角散乱(SAXS)測定により散乱関数P_s(k)を決定した。散乱ベクトルの大きさk(あるいは散乱角)の大きい領域で測定を行うためにX線源としてMoKα線を用い,また直接的にP_sを決定するために点収束型SAXSカメラを用いて測定を行った。決定された散乱関数はk>0.5A^^°^<ー1>の領域において顕著な振動挙動を示さなかった。この結果は,HW理論の予測と矛盾しないが,シンジオタクチックPMMA(f_r=0.90)の散乱関数がkの大きい領域で振動挙動を示すとするKirsteらの実験結果とは大きく異なる。彼らはクラトキ-(線収束型)カメラを用いて測定を行っているが,その場合得られる散乱デ-タは直接P_sに対応しないので,散乱デ-タに補正を行ってP_sを評価する必要がある。この補正について検討を行ったところ,上記のようなkの大きい領域では正確にP_sを評価する事は困難であり,場合によっては補正によって得られるP_sに虚偽の振動挙動が現れることが明かとなった。[第40回高分子年次大会(平成3年5月)で発表予定] 3.主要設備である動的光散乱測定装置を用い,動的光散乱法によりf_rが0.59のアタクチックオリゴおよびポリスチレン(aーPS)のシクロヘキサン中34.5℃(Θ溶媒)における並進拡散係数Dを決定した。これまで測定例の無かった極低分子量オリゴスチレン(3量体)のDを精度良く決定できた。現在,デ-タの追加とHW理論を用いた解析を行っている。(第40回高分子年次大会で発表予定) 4.M_〓が1.12×10^2から1.79×10^6の範囲の末端構造の揃った19のポリイソブチレン(PIB)試料について,イソ吉草酸イソアミル中25.0℃(Θ溶媒)およびベンゼン中25.0℃(Θ溶媒)における[η]を測定した。PIBと溶媒との特殊相互作用により,何れの溶媒中においても極低分子量オリゴマ-の[η]は負となる。この相互作用の影響を取り除くための補正法を提案し,補正後のデ-タをHW理論を用いて解析した。解析結果より,PIBはaーPSあるいはaーPMMAに比べ細く柔らかい鎖であることが明かとなった。(Macromoleculesに投稿,印刷中) 5.上記の動的光散乱測定装置とFabryーPerot干渉分光器を用い,静的異方性光散乱法によりaーPSのシクロヘキサン中34.5℃および四塩化炭素中25.0℃における平均二乗光学異方性〈Γ^2〉を決定した。Fica50型光散乱光度計を用いた以前の測定結果は,今回得られた結果とよく一致することがわかった。溶質高分子の光学異方性が小さく,Fica50型光散乱光度計では測定が不可能な,aーPMMAのアセトニトリル溶液(44.0℃)についても〈Γ^2〉の決定が可能なことを確認した。(第40回高分子年次大会で発表予定)
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