本年度の目的の第1は、ミトコンドリアのlarge ribosomal RNA(MtlrRNA)が極細胞形成能を有するという直接証拠を得る事であったが、これに関しては以下に述べるように初期の目的を達する事が出来た。すなわち、すでにクロ-ニングに成功していたcDNA(pDE20.6)を用いてプライマ-伸長法により新たなcDNAを合成し、その中から、1.4kbの長さのものをクロ-ニングする事が出来た。このcDNAの塩基配列を決定し、デ-タベ-スを検索したところ、D.yakubaのMtlrRNAと95%の相同性を示し、D.melanogasterとは、デ-タベ-スに登録されている部分に関して1塩基しか異なっていなかった。なお、D.melanogasterのMtlrRNAをコ-ドするcDNAはクロ-ニングが困難であるらしく、デ-タベ-スには3′側の一部のみが登録されているに過ぎず、今回のわれわれの研究によってはじめて全長の塩基配列が明らかになったものである。このcDNAをpGEMー3ベクタ-に再クロ-ンし、SP6、T7プロモ-タ-を使ってそれぞれセンスRNAとアンチセンスRNAを合成した。これらのRNAを紫外線照射卵に微小注射したところ、センスRNAのみに明らかな極細胞形成能が認められた。これは、少なくともわれわれの用いた紫外線照射卵によるアッセイ系ではMtlrRNAが極細胞形成に基本的働きをしている事を示す直接証拠である。さらに、胚の磨砕液を遠心分画し、各分画よりRNAを抽出してノ-ザンブロット解析を行ったところ、ミトコンドリアを遠心沈澱させた後の上清にも、ミトコンドリア分画と同様量のMtlrRNAが存在する事が明かとなった。ミトコンドリアゲノムにコ-ドされている他の遺伝子のmRNAはこの上清には検出できないので、これは決してア-テファクトではない。このことは、MtlrRNAは本来はミトコンドリア中のリボソ-ムの構成成分であるが、卵形成中あるいは発生のごく初期に、MtlrRNAがミトコンドリアより外部に搬出される時期がある事を強く示唆している。
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