| 研究概要 |
卵RNAのウサギ網状赤血球由来のライセ-トにより翻訳させ,産物を2次元ゲル電気泳動後フルオログラフィ-を作製することにより分析する実験を本年度も繰り返した.今回は条件を改良し,とくに全RNA標品からpoly(A)+RNAを分画して用いた.その結果,受精前後,休眠開始の段階で基本的なmRNA組成に変化がないことを再確認することができた.受精前の結果は,母性mRNAに由来するものであることが明らかである.しかし,この方法でみた場合,休眠が深まるにつれて,フルオログラフィ-のスポットが全般的に薄くなることが初めて明らかとなった.休眠開始後において,mRNA組成そのものには母性由来のものと差異がないにもかかわらず,個々の分子の翻訳効率が低下していくものと考えられる.卵の休眠を熱塩酸処理によって覚醒させた後,分子量7万のタンパク質数個が一時的に誘導合成されること,これがheat shock protein(hsp)と類似のものであることを前回報告した.本年度の研究から,同様な成分をもたらすmRNAが,予想外なことに受精前から(すなわち母性成分として)存在することが確認された.その数は3個あったが,受精して休眠が開始したのちには2個に減少した.ショウジョウバエのヒ-トショックタンパク質hsp70の遺伝子をプロ-ブとして卵のpoly(A)+RNAのノ-ザンブロット分析を行ったところ,やはりハイブリダイゼ-ションを示すバンドが検出され,今回の成分もショウジョウバエのそれと配列において類似していることが確実である.このカイコの分子は,熱塩酸処理をほどこさない条件下で恒常的に見出されるものであることから,hspに類似した,いわゆるheat shock cognate protein(hsc)のmRNAであると考えられる.転写能力が確立する前の段階における同タンパク質の生理的役割は不明であり,熱塩酸処理後のhspの誘導と併せて今後の研究が必要である.
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