研究概要 |
本研究は、有毛細胞・聴神経間シナプスの解析を目的とし,その為の手段として蝸牛器官の組織切片標本を用いるものである。平成2年度は,2つのアプロ-チによって,有毛細胞・聴神経間シナプスの解析を行った。その第一は,単離した有毛細胞を対象にしたものである。この実験では,中枢神経核に発っし,有毛細胞に終止する遠心性シナプス機構を明らかにすることができた。このシナプスでは神経伝達物質のアセチルコリンが,有毛細胞体上でのムスカリン受容体を活性化し,有毛細胞膜の過分極を起し,細胞機能の抑制を行う基礎的メカニズムを明らかにした。この研究は,更に発展させ,系統発生的視点からもムスカリン受容体が有毛細胞体上に存在し,細胞内Ca濃度の増大をもたらし,有毛細胞膜過分極を生ずるメカニズムを明らかにしつつある。更に,有毛細胞からの求心性シナプス機構も解析を進めているが,この問題は非常にむずかしく,確心のもてる実験事実をつかむには到っていない。第二の,組織切片標本による実験も,標本の作製に苦労している。蝸牛組織の場合,有毛細胞・聴神経シナプスは,非常にもろい基質あるいは支持細胞に囲まれており,切り出した状態で有毛細胞周囲の構造を維持するのが困難であった。しかし,切片標本を作るのでなく,単純に切り出した標本でも,有毛細胞,及びシナプスを形成していると思われる神経線維をかなり良く観察することができるようになったので,平成3年度は,この第二のアプロ-チを中心に実験を進めたい。
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