研究概要 |
有毛細胞には振動刺激情報を中枢に送る求心性神経と,中枢からの,おそらく制御信号を伝達する遠心性神経との2種類のシナプスがある。この中で遠心性シナプスに関してはアセチルコリンが神経伝達物質であること,及びムスカリン受容体を介したシナプス機構であることを,ほぼ確立した。(1)アセチルコリンは,両生類・鳥類・ホ乳類の全てで有毛細胞膜過分極を起した。(2)アセチルコリンは、上記の三動物種において細胞内Caイオン濃度の上昇をもたらし,Kチャネルを活性化することによって膜過分極を起した。この研究は現在も進行中であるが,アセチルコリンによって引き起される細胞内情報伝達系の各ステップを阻害する実験の結果,GTP結合蛋白質,ホスホリパ-ゼCの活性化,IP3の濃度増大,IP3受害体の活性化を経て細胞内貯蔵部位からのCaイオンの放出によって細胞膜に存在するKチャネルが活性化し,膜過分極,即ち遠心性シナプスによる有毛細胞機能の抑制が実現されるという分子機構の全容を明確にしつつある。更に、アセチルコリンは求心性神経に対してはKチャネルをブロックすることにより膜低抗を上げ,求心性シナプス伝達に対して促進的に作用する機構の存在することも明らかにした。従ってアセチルコリンは有毛細胞への抑制と,求心性神経への促進の二つの結抗する作用によって,中枢神経系による末梢聴機能の制御を実現するものと考えられる。ところで、求心性シナプスの解析は遠心性シナプス系の解析に比べて今年も目立った進展はなかった蝸牛のスライス標本も確かに個々の有毛細胞・神経線維を直視できる状態で作成することはできるが,神経線維終末端からのパッチ電極記録は非常に難しく、確心の持てる記録は得られていない。
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