睡眠・覚醒の分子機構と生理的意義

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01440026
• 研究機関: (財)大阪バイオサイエンス研究所
• 研究代表者: 早石 修 (財)大阪バイオサイエンス研究所, 所長 (40025507)
• 研究分担者: 渡辺 恭良 (財)大阪バイオサイエンス研究所, 第3研究部, 部長 (40144399) ; 松村 人志 (財)大阪バイオサイエンス研究所, 第2研究部, 研究員 (50173886)
• キーワード: プロスタグランジン / 睡眠・覚醒 / ニュ-ロン / マイクロダイアリシス / セレニウム / 2ーdeoxyglucose / 断眠 / 冬眠

研究概要

1.サルおよびラット用のバイオアッセイシステムにより、プロスタグランジン(PG)E_2をサルやラットの脳内の種々の部位に投与して、その覚醒作用の作用部位を調べている。サルにおいては視床下部後部領域で特に作用が強く見られるなどの結果が得られている。ラットでも、その他多くの部位での作用を検討中である。
2.PGD_2の合成酵素が、セレニウムイオンにより特異的に阻害されることが、最近当研究所で明らかにされた。そこで、ラット第三脳室内にセレニウム化合物をマイクロダイアリシス法により投与し、脳内PGD_2合成酵素活性を阻害して脳内内因性のPGD_2量を減少させることにより睡眠・覚醒がどのように変化するのかを調べた。その結果、セレニウムが睡眠を顕著に抑制することが見出された。この結果は脳内内因性のPGD_2が生理的に睡眠を誘発しているというわれわれの作業仮説を支持するものである。
3.ニュ-ロンレベルでの研究では、視床下部領域で睡眠・覚醒に関連して活動の変化するニュ-ロンを見出し、その分布を求めた。これらの中には睡眠・覚醒の状態変化に先立って活動の変化が見られるものがあり、これらは積極的に睡眠あるいは覚醒を引き起こすよう機能している可能性がある。さらに、これらニュ-ロンの中に、PGに反応するものが存在することを明らかにしている。
4.ラットにおいて、断眠に伴う脳内各部位のエネルギ-代謝の変化を、2ーdeoxyglucoseを用いて検討し、睡眠・覚醒の生物学的機能に関して辺縁系が重要な役割を果していることが示唆された。
5.三菱化成生命科学研究所の近藤宣昭博士との共同で、冬眠中のリスの脳内PG量を測定し、脳内PGの冬眠現象における役割について検討を試みている。

研究成果

• [文献書誌] Hayaishi,O.: "Molecular mechanisms of sleepーwake regulationーーーRole of prostaglandins D_2 and E_2ーーー" FASEB(The Federation of American Societies for Experimental Biology)Journal.
• [文献書誌] Hayaishi,O.,et al.: "Further studies on sleepーwake regulation by prostaglandins D_2 and E_2" Sleep '90.
• [文献書誌] Nishino,S.,et al.: "Prostaglandin E_2 levels in cerebrospinal fluid of normal and narcoleptic dogs" Biol.Psychiatry. 28. 904-910 (1990)
• [文献書誌] Matsumura,K.,et al.: "High density of prostaglandin E_2 binding sites in the anterior wall of the 3rd ventricle:a possible site of its hyperthermic action" Brain Research. 553. 147-151 (1990)
• [文献書誌] Matsumura,H.,et al.: "Evidence that brain prostaglandin E_2 is involved in physiological sleepーwake regulation in rats" Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86. 5666-5669 (1989)
• [文献書誌] Nishino,S.,et al.: "Prostaglandin E_2 and its methyl ester reduce cataplexy in canine narcolepsy" Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86. 2483-2487 (1989)