健康及び病態時の中枢神経系における細胞内カルシウム依存性蛋白質リン酸化反応の役割

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01440027
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 日高 弘義 名古屋大学, 医学部, 教授 (80100171)
• 研究分担者: 萩原 正敏 名古屋大学, 医学部, 助手 (10208423) ; 小林 良二 名古屋大学, 医学部, 助教授 (00020917)
• キーワード: δ型Cキナ-ゼ / ζ型Cキナ-ゼ / カルモデュリンキナ-ゼII / 長期増強現象 / GABA放出 / ACAMPー81 / MARCKS

研究概要

本年度は、研究実施計画通りCキナ-ゼアイソザイム正常組織及び腫瘍特異的発現の検索と、カルモデュリンキナ-ゼIIの中枢神経系における機能の分子薬理学的検討を行った。
Cキナ-ゼについては、前年度までにI(γ)型、II(β)型、III(α)型アイソザイムに対する特異的モノクロ-ナル抗体を用いてその発現量を明らかにしてきた。今回新たに網膜内のCキナ-ゼアイソザイムの分布を調べ、哺乳類ではII型とIII型が網膜で発現し、特にII型はmop bipolar cellに特異的に発現し、視覚機能にもCキナ-ゼが関与することが明らかとなった。また、従来のI型、II型、III型に対する抗体に加えて、本年度はδ型及びζ型と呼ばれるCキナ-ゼ亜種(nPKC)に対するペプチド抗体を作製し、その組織及び細胞特異的発現を調べた。その結果、両性類の網膜では哺乳類のようにII型及びIII型Cキナ-ゼは存在せず、δ型及びζ型特異的ペプチド抗体に反応するCキナ-ゼが発現していた。またζ型Cキナ-ゼは、哺乳類では小脳プルキニエ細胞の核内に局在することが判明した。また3Y1細胞では、ζ型が主要なCキナ-ゼであることも判明し、その部分精製にも成功した。
カルモデュリンキナ-ゼIIに関しては、特異的阻害剤KNー62を用いることによって海馬における長期増強現象にカルモデュリンキナ-ゼIIが関与していることを分子薬理学的手法によって初めて証明し得た。また、KNー62を髄腔内に投与すると、髄液中へのGABA分泌が阻害され、血圧と拍動数の上昇を認めた。このことから、GABAの分泌もしくは合成にカルモデュリンキナ-ゼIIの関与が考えられる。更に、我々が独自に精製したカルモデュリン結合蛋白(ACAMPー81)が、Cキナ-ゼの脳における主要基質蛋白MARCKSと非常に類似していることが判明し、カルモデュリン系とCキナ-ゼ系の相互作用の接点になる可能性がある。

研究成果

• [文献書誌] K.Onoda et al.: "Different expression of protein kinase C isozymes in pancreatic islet cells." Endocrinology. 126. 1235-1240 (1990)
• [文献書誌] H.Tokumitsu et al.: "KNー62,1ー[N,Oーbis(5ーisoquinolinesulfonyl)ーNーmethylーLーtyrosyl]ー4ーphenylpiperazine,a specific inhibitor of Ca^<2+>/calmodulinーdependent protein kinase II." J.Biol.Chem.265. 4315-4320 (1990)
• [文献書誌] M.Hagiwara et al.: "ζーrelated protein kinase C in nuclei of nerve cells." Biochem.Biophys.Res.Commun.168. 161-168 (1990)
• [文献書誌] M.Nishikawa et al.: "Decreased expression of type II protein kinase C in HLー60 variant cells resistant to induction of cell differentiation by phorbol diester." Cancer Research. 50. 521-525 (1990)
• [文献書誌] N.Ishikawa et al.: "Effect of a new Ca^<2+>ーcalmodulinーdependent protein kinace II inhibitor on GABA release in cerebrospinal fluid of the rat." J.Pharmacol.Exp.Ther.254. 598-602 (1990)
• [文献書誌] M.Hagiwara et al.: "Assessment of protein kinase C isozymes by enzyme immunoassay and overexpression of type II in thyroid adenocarcinoma." Cancer Research. 50. 5515-5519 (1990)