研究概要 |
細菌性赤痢発症に到る過程は,赤痢菌が腸上皮細胞へ一次細胞侵入を誘発し,これにより細胞内へ侵入した菌が分裂増殖しつつ隣接細胞へ再侵入(二次細胞侵入)する2つの大きな段階から構成されている。我々の研究から,一次細胞侵入には菌の有する大プラスミド上の遺伝子群が,二次細胞侵入には主として染色体上の遺伝子群が各々関与していることが明らかになりつつある。しかし本研究で示唆されているように,プラスミド上の一次細胞侵入性遺伝子発現は,プラスミド上の2つの正調節遺伝子による支配下にあるばかりでなく,染色体上のビルレンス遺伝子の調節も受け,したがって染色体性ビルレンス遺伝子群の役割は多岐に及んでいると推定されている。そこで本年度は,B群赤痢菌YSH6000株にTn5__ー挿入を行い,組織細胞感染モデルにより得られた50株のビルレンス喪失変異株を対象として,(i)ビルレンスに関連する形質の解株(ii)その遺伝子領域の決定とその機能,を中心に研究を進めた。50株の変異株中,43株は菌体表層のO抗原リポ多糖(LPS)に,1株は代謝に,残こる6株は一次細胞侵入に各々欠陥が生じていた。興味あることに,一次細胞変異株中2株では,明らかに大プラスミド上のビルレンス遺伝子群の1つ,Ipa蛋白産生遺伝子群の発現が,転写の段階で減弱されていた。一方本研究で同定した染色体上のビルレンス遺伝子領域を,YSH6000株染色体上にマップする目的で,全染色の<Not>___ーI制限酵素による切断地図を作製した。この地図上に,50株の変異株が関連する独立の9つの領域を決定した。その結果LPS変異株は<rfa>___ー,<rfb>___ー,<rfc>___ーに,代謝異常を呈した変異株は,<thyA>___ーに,残こる6株(一次細胞侵入)の変異領域は未知遺伝子領域であることを各々明らかにした。
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