研究概要 |
細菌性赤痢発症に到る過程は,赤痢菌が腸上皮細胞へ一次細胞侵入を誘発し,これにより細胞内へ侵入した菌が分裂増殖しつつ隣接細胞へ再侵入(二次細胞侵入)する2つの大きな段階から構成されている。我々の研究から,一次細胞侵入には菌の有する大プラスミド上の遺伝子群が,二次細胞侵入には主として染色体上の遺伝子群が各々関与していることが明らかになりつつある。しかし本研究で示唆されているように,プラスミド上の一次細胞侵入性遺伝子発現は,プラスミド上の2つの正調節遺伝子による支配下にあるばかりでなく,染色体上のビルレンス遺伝子の調節も受け,したがって染色体性ビルレンス遺伝子群の役割は多岐に及んでいると推定されている。そこで本年度はB群赤痢菌YSH6000株にTn5挿入を行い,組織培養細胞感染モデルにより得られた50株のビルレンス喪失変異株の中で,大プラスミド上のビルレンス遺伝子発現に関与する2つの変異体(VacBとVacC)のビルレンス領域の解析を行った。VacBとVacCは,大プラスミド上のビルレンス遺伝子発現を,転写後と転写の段階で調節していた。VacBとVacC領域を各々プラスミドベクタ-へクロ-ン化後,遺伝子構成,塩基配列,遺伝子産物を決定した。その結果VacBはpurA遺伝子,又VacCはphoBR遺伝子近傍にマップされ,各々単一シストロンから構成され87KDと46KDの蛋白がコ-ドされていいた。46KDのVacC蛋白の塩基配列に基ずくアミノ酸配列は,大腸菌Kー12株のtRNAグアニントランスグリコシラ-ゼ(Tgt)と同一であった。一方VacBは既知遺伝子産物の中に同一なものは見い出せなかった。現在YSH6000株染色体上の残こる3つの未知ビルレンス領域も大プラスミド上のビルレンス遺伝子発現に関与していると推定されており,それらの遺伝子の解析は現在進行中である。
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