研究概要 |
本研究は肺気腫症における蛋白分解酵素阻害物質のα1ーアンチトリプシン(α1AT)の関与を検討する一環として、量的異常のない肺気腫症個体の機能異常(α1AT活性中心の異常など)を直接塩基配列より確認することを目的とする。 1.PCR法によるα1AT塩基配列決定:好熱菌DNAポリメラ-ゼを用い遺伝子の一定部分を高度増幅するPCR法(補助にてサ-マル・サイクラ-を購入)で簡便に直接塩基配列を解読した。ことに一度増幅したDNAを精製し、プライマ-比を50:1として二度目のPCRを行い、高品位のシ-ケンス・ゲルを作成(補助にて電気泳動装置一式を購入)した。次にα1ATのコ-ド領域であるエクソンII,III,IV,Vのすべての領域をカバ-する多数の合成オリゴヌクレオチド・プライマ-を作成し、患者より採血後一週間以内に1400塩基対の全塩基配列を解読(補助により遺伝子解析用マイクロコンピュ-タ一式を購入)が可能となった。 2.α1AT遺伝子塩基配列決定:(1)α1ーアンチトリプシン欠損症例(Miiyama)の解析。38歳男性(長野県飯山市)若年肺気腫症例。α1AT血中濃度14.5mg/dl。α1AT遺伝子はホモ接合でエクソンIIにおいてSer^<53>(TC__ーC)からPhe^<53>(TT__ーC)へのアミノ酸変異が明かになった。家族解析の結果、両親(従兄妹)、姉、娘はすべて同部において、ヘテロ接合であり、血清α1AT値(父;106mg/dl,母;119mg/dl,姉;78mg/dl,娘;140mg/dl)もこの結果を支持した。本アミノ酸変異は海外にても未報告でありMiiyamaと命名した(Am.Rev.Respir.Dis.141,suppl,1990、スライド報告)。(2)α1AT活性中心(Met^<358>)近傍部分の解析。DNAを抽出した患者16例(肺気腫症2例、巨大ブラ9例、自然気胸5例:内40歳未満7例)の解析では活性中心近傍Ala^<332>ーAsn^<390>において正常亜型以外のアミノ酸変異は認めなかった。この解析範囲には、正常亜型M_2,M_3における既知の変異Glu^<376>(GAA__ー)→Asp^<376>(GAC__ー)が存在する。その頻度は16例中7例がGlu^<376>/Asp^<376>のヘテロ接合、8例はGlu^<376>/Glu^<376>のホモ接合、1例がAsp^<376>/Asp^<376>のホモ接合であり既報表現型頻度によく一致した。
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