研究概要 |
本研究の最終年にあたる本年は昨年度の方法の確立をもとに以下に述べる研究成果が得られ実り多い年度であった。上皮のイオン輸送に伴う水の移動は気道液の産生に重要な役割を果たしており,本年は鼻アレルギ-患者の誘発前と誘発後の上皮のイオン輸送について検討した。結果,誘発後には粘膜下側から粘膜側に水の移動が増加し,鼻アレルギ-では誘発後に繊毛間液の増加が存在するとともに,水様性鼻漏の原因の一つに上皮を介する水の移動の増加が考えられた。粘液糖蛋白は気道液の重要な構成成分であり,気道液の重要な性質である粘稠度に影響を与えるといわれている。そこで慢性副鼻腔炎鼻汁中の主な糖蛋白であるフコ-スやシアル酸濃度と鼻汁の粘稠度(弾性率,粘性率)との関係を検討した。この結果鼻汁の弾性率,粘性率は局所産生糖蛋白のフコ-ス濃度と高い相関を示すことが明らかとなった。今後は高い粘稠度を産生する病的気道粘膜のフコ-スの産生機構につきさらなる検討を加えたいと考えている。気道液の組成の中で細胞成分は病態と密接に関係があり診断,治療上重要な位置を占めている。気道液の細胞成分の検討は定量的なものが少なく特に鼻汁においてはなされていなかった。本年は正常,慢性副鼻腔炎,鼻アレルギ-の定量的鼻汁細胞診を小児,成人患者で施行し比較検討した。今後は定量的細胞診と病態との関係,他の組織の気道液との関係,物性との関係を検討する予定である。気道液中の炎症細胞から放出されるプロテア-ゼ(P)は生体防御として働く一方,生体障害性に働く可能性を有しておりこれを中和するインヒビタ-(PI)との生体内でのバランスが重要である。そこで慢性副鼻腔炎鼻汁と鼻副鼻腔粘膜中のPとPIを測定した。結果,慢性副鼻腔炎の鼻汁や組織中にはPIにより中和されないチオ-ルプロテア-ゼが多く存在しており,これが本疾患の遷延化の一原因であることが明らかとなった。
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