研究概要 |
平成3年3月末報告書 昨年度は、糖尿病性眼合併症のなかでもとくにガラクト-ス白内障について研究を集中しておこなった。研究実績は3項目に分け以下に述べる。1.ガラクト-ス白内障発生時の伸展標本による水晶体上皮細胞増殖能の検討。本研究の最終目的は糖白内障発症時の上皮細胞動態を明らかにすることである。各種成熟段階の正常ラット(生後3,7,24週齢)に50%,25%,15%と3種類の濃度のガラクト-ス含有食餌を与え、程度の異なる白内障を作成した.食餌開始後1,4,7,14,28日(一部分)目に実験を行った.エ-テル麻酔下に眼球の前房に5μ1 ^3Hーサイミジンを注射し、2時間後に眼球を摘出し水晶体上皮細胞の全伸展標本を作成し、 ^3Hーサイミジンオ-トラジオグラフィ-法を組み合わせ、DNA合成中のラベル細胞の分布を検索した。試料にはトルイジン青対比染色を同時に行い、本科学研究費で補助していただいたカラ-画像解析機Spiccallを用い、ラベル細胞数ならびに総細胞数を計測し定量化した。結果は、生後3と7週齢ラットでは食餌開始後4日目に前襄下中央帯でのラベル細胞数の著明な増加が見られ、逆に7〜14日目になると正常状態以下へのラベル細胞数の減少が観察できた.この事実は、ガラクト-ス含有濃度とは明確な相関性はなかった.ただ生後24週齢ラットではこれらの変動がやや遅れて出現した."前襄下中央帯でのラベル細胞急増の原因は何か?"という大きな疑問に答を出すために以下の2つの実験を行った.2.ガラクト-ス食餌にアルド-ス還元酵素阻害剤を混入させ、ガラクト-ス白内障発生を防止したときのラベル細胞の変動を見る.上記と同様の方法で行った.結果は、アルド-ス還元酵素阻害剤投与群においても、食餌開始後4日目のラベル細胞急増は観察できた.以上より、光学顕微鏡学的に認められる白内障以前に起きるガラクチト-ル(糖アルコ-ル)蓄積、水分吸収による線維細胞配列の乱れが原因であると想像できる.さらにこの線維細胞配列の乱れを作成するために、3.YAGレ-ザ-照射による水晶体後嚢破壊によるラベル細胞の変動を見る.結果は、前襄下中央帯での著明なラベル細胞増加は認めないものの、赤道部に近い中央帯でのラベル細胞の軽度増加が見られ、水晶体被膜の連続性の破壊や水晶体線維配列の乱れが上皮細胞増殖能に関与している可能性が示唆された.
|