研究概要 |
研究の目的は,角膜障害,虹彩毛様体障害,白内障,網膜症などの糖尿病眼合併症発症メカニズム解明である.解明のためにはまず,ヒトで発症するこれらの合併症に近似した病変を動物で再現する必要がある.それらの形態学的病理像を解明し、アルドース還元酵素阻害剤(ARI)の治療効果について検討した.糖尿病形態学的病理初期像を捉えるため,補助していただいた画像解析装置SPICCA IIを用い,糖尿病性眼合併症発症に関与する組織の形態学の定量,数量化を中心として研究を押し進めた.糖尿病性白内障に限らず白内障発症そしてその治癒には水晶体上皮細胞が深く関与する.水晶体各種濃度ガラクトース含有食餌を生後週齢の異なるラットに与えガラクトース血症ラットを作成した.これらのラットの前房中に ^3Hサイミジンを投与し糖白内障発症ならびにARI投与と食事変換による治癒の際に上皮細胞がいつ増殖しそして停止するかの動的状態を観察するため上皮細胞の伸展標本を作成し標識細胞,非標識細胞のそれぞれを画像解析装置にて解析した.その結果ガラクトース食餌開始1日目に増殖帯でのラベル数増加,4日目での前嚢下中央帯でのラベル細胞の著明な増加,7日目での正常以下へのラベル数の減少というパターンが食餌内ガラクトース濃度に関係なく認められた.また,50%濃度ガラクトース含有食餌飼育ガラクトース血症ラットのラットの毛様体色素細胞層,無色素細胞層の面積比を測定し,ARI投与の効果の有無を検討した.その結果,通常食餌群およびARI投与群では2層の上皮細胞は立方型を呈していた.一方,ガラクトース食餌群では色素細胞の形態には変化は認められなかったが,無色素細胞は著明な円柱型を呈し,面積比測定でも明かな拡大を示した.つまり,ガラクトース血症ラットにおいて毛様体無色細胞は著明に肥大し,ARI投与はこれを完全に抑制した.ここで見られた毛様体上皮細胞の変化はアルドース還元酵素(AR)を起因として発症し,糖尿病患者で見られる血液房水柵破綻,一時的な近視化などの合併症と関連すると考えた.
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