研究概要 |
糖尿病性眼合併症発症メカニズム解明のためにはまず,ヒトで発症するこれらの合併症に近似した病変を動物で再現する必要がある。われわれはこれまで全身状態が悪化しないので管理のしやすいガラクトース血症ラットを実験の主体として用いてきた。が,糖尿病ラットを含めた糖異常ラットを用いて糖尿病性眼合併症の発症するそれぞれの組織の病理像を解明し,アルドース還元酵素阻害剤(ARI)の治療効果について検討した。糖尿病形態学的病理初期像を捉えるため,補助していただいた画像解析装置SPICCA IIを用い,糖尿病性眼合併症発症に関与する組織の形態の定量,数量化を中心として研究を押し進めてきた。以下に研究で得た主な結果について述べる。 1.各種濃度ガラクトース含有食餌投与によるラットガラクトース白内障を作成し,生化学的および組織学的検索をおこない,その結果から糖尿病症例で,血糖異常が同程度と仮定すると,表層性線維膨化を初発症状とする糖尿病性白内障は若年者においては容易に発症する可能性がある。これに対し,老齢者では発症しにくい,もしくは修復されてしまう可能性があると推論した。これはヒト糖尿病白内障発症の疫学的調査結果と一致する。 2.ガラクトース白内障は水晶体赤道部から前赤道部にかけての表層皮質に初発し前皮質,後皮質に線維膨化・液化が進展する。ARI効力の強弱によって生じる形態学的差異を5段階に分類した。 3.ラットガラクトース白内障水晶体をAR免疫組織化学的観察と上皮細胞層,皮質・核,核部分に分離しそれぞれの分画AR活性を生化学的に観察した。白内障水晶体では正常に比べ,皮質由来の20-30%AR活性上昇があった。ガラクチトール蓄積部位は主として皮質である。以上から,ARを多く有する水晶体皮質において,糖白内障経過中さらにAR活性が増加し,ガラクチトールも最も多く蓄積し,線維が崩壊する。上皮細胞の糖白内障にたいする関与は少ないと考えた。
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