研究概要 |
歯科材料は生体内で腐食・劣化し、材料成分が溶出し、溶出物が生体障害の主因となる。特に生体内に長期間装着する材料については微量溶出物の有害作用の有無を明確にする必要がある。本研究はこのような見地に立ち、インプラント用および矯正用Ti合金4種をヒト唾液に10週間浸漬し、成分元素の溶出量を測定するとともに、成分元素の1つであるNiおよび比較の対照としてのCdについてマウスに対する免疫毒性に関する検討を行った。 1.Ti合金からのヒト唾液中への組成金属の溶出:各金属100mg/2ml唾液、37℃、15回転/時間の条件で、3,7日,2,4,6,10週後のTi,Alの溶出量を測定した。いずれの合金においてもTiの溶出を認めたが、NiーTi線の3日後のTi溶出量は20.7ng/日であった。溶出量はその後減少したが、3週間後でも2.8ng/日の溶出があった。TiAlFe合金微粒子3日後の溶出量はTi 18.4ng/日、Al 58ng/日であった。 2.NiおよびCdの免疫毒性:マウス(ICR,4週齢,♂)に対し、Ni,Cd微粒子1mg/匹を皮下投与またはNiCl_2 0.042mg/ml、CdCl_2 30ppmを飲料水に加え経口摂取させ、4,8週間後にmitogen(LPS,ConーA)によるリンパ球幼若化反応、抗核抗体およびT細胞(脾臓)のヘルパ-、サプレッサ-比(H/S比)を調べた。CdまたはNi皮下投与および経口投与4週間後にLPSによるリンパ球幼若化反応は対照群より亢進される傾向であった。Cd皮下投与4週間後のH/S比は増加傾向であった。抗核抗体は検出されなかった。 以上の結果から歯科材料からの微量溶出元素による免疫系への作用についてより詳細な検討の必要性が示唆された。当初の研究計画はほゞ達成された。今後この方法を用い、Tiの免疫系への影響の検討が可能となった。
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